海外ビジネスコンサルティング

2021年発刊

 『コロナ後の中国の戦略的新興産業と「一帯一路」』

タイトル:「コロナ後の中国の戦略的新興産業と「一帯一路」」
発行・編集元: 日本テピア株式会社・テピア総合研究所
発行日: 2021年1月29日
ページ数: 186ページ(B5版)
価格: 4,950円(税込み・送料別)

お申込み方法

Pagetop

 「はじめに」から

 ポストコロナの世界はグローバル化が退潮するとの見方が強まっている。中国のグローバル化構想である「一帯一路」も見直しを余儀なくされそうな気配が漂っている。中国国産の第 3 世代原子炉である「華龍一号」を採用するカラチ原子力発電プロジェクトの実施など、これまで「一帯一路」のショーケースの役割を果たしてきたパキスタンでは、石炭火力発電所の建設に関して中国企業の不正を暴く報告書が公表されるなど雲行きが怪しくなってきた。中国に対する米国の強硬な姿勢も鮮明になり、中国の長期的な経済発展を阻害するリスクが高まってきている。

 こうしたなかで、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、例年より 2ヵ月遅れて(2020 年)5 月に開催された全国人民代表大会(全人代)では、「政府活動報告」の中で経済成長の柱の 1 つとして「内需拡大戦略」が掲げられた。全人代に先立つ 2 月 28 日、国家発展改革委員会など 23 部門が各省や自治区等の関係機関に対して、「消費規模の拡大と品質の引き上げを促進し強大な国内市場の構築を加速する実施意見」を発布し、国内消費の拡大をはかる方針を打ち出した。この時点では、新型コロナウイルス感染症がこれほど世界的な広がりを見せるとは予想していなかったと思われるが、新型コロナと米国の対中強硬姿勢は、中国が国内市場に軸足を移す大きな要因となりそうだ。

 消費拡大を打ち出した実施意見は、5 本の柱で構成されている。まず、国内市場での供給の適正化を強力に進める。具体的には、国産商品・サービスの競争力を全面的に引き上げ、品質向上活動を積極的に推進し、企業が品質管理を全面的に強化するよう指導する。サービス業の標準体系をできるだけ早く完備し、養老や家政、育児教育、文化・観光、体育、健康等の分野におけるサービス標準の制定・改定ならびに実験プロジェクトの実証を進める。消費財分野では、高いレベルの品質認証を積極的に進める。このほか、自主ブランドの構築強化や輸入商品の供給の改善、免税業政策の一層の整備をあげた。

 次に、文化・観光・レジャー消費の品質向上・アップグレードを重点的に推進する。その一環として、①特色ある文化・観光製品を豊富にする、②インバウンド観光とショッピング環境を改善する、③文化観光の宣伝・普及モデルのイノベーションをはかる─などの内容を盛り込んだ。

 3本目の大きな柱となっているのが、都市と農村が融合した消費ネットワークの構築。この中で、消費物流インフラの建設を強化するとしており、具体的には、電子商取引の物流ポイントと鉄道、道路、水運、航空輸送ネットワークの一体的な配置ならびに融合発展を推進し、複数の総合物流センターを建設する。

 4 本目の柱は、インテリジェント+消費生態システムの構築。具体的には、次世代情報インフラ建設の加速が盛り込まれ、5G ネットワーク等の情報インフラの建設ならびに商業利用のテンポを早める。また、オンラインとオフラインの統合等の新しい消費モデルの発展を奨励する。その一環として、「スマートストア」、「スマートブロック」、「スマートビジネス地区」の建設を奨励し、オンラインとオフラインの相互作用やビジネス・観光・文化・体育の協同を促進する。グリーンなインテリジェント製品の使用も奨励するとした。さらに、インターネット+社会サービス消費モデルを大々的に発展させる方向性を示した。

 住民の消費力を持続的に引き上げる内容も盛りこんだ。それによると、主要な社会集団の増収を促進し消費ポテンシャルを刺激、誘引する。具体的には、職業教育制度体系をさらに改革、整備し、職業技能訓練を大規模に展開し、技術系労働者の技能水準を引き上げる。金融資産による住民の収入を安定化するとともに増加させる。最後に、安心できる消費環境を全面的に創出するとした。そのため、市場秩序の監督・管理を強化する。不正競争防止法を強化し、公平な競争市場環境を維持する。消費分野の信用体系の構築を積極的に推進する考えも明らかにした。

 国家発展改革委員会政策研究室は、世界銀行融資による「中国経済改革促進と能力強化プロジェクト」(TCC6)のサブプロジェクトである「中国の国内市場ポテンシャルをさらに育成、刺激する研究」を実施している。このサブプロジェクトは、現在の中国の国内市場の発展レベルと潜在的な発展空間を厳密に分析することを目的としているが、同政策研究室は 2020 年 7 月 2 日、市場ポテンシャルに関する政策研究と市場ポテンシャル研究の 2 件の委託調査を実施する公募案内をウェブサイトに公表した。市場ポテンシャル政策研究は 2021 年 3 月末日までに、市場ポテンシャル研究は 4 月末までに最終報告書を提出することを要求している。同公告では、新型コロナウイルス感染症が世界的に蔓延するなかでグローバル経済が深刻な衰退リスクに直面していると分析。国際貿易や投資が大幅に委縮しており、国際的な取引も制限を受けているため、外需に依存して発展するというスキームは不確実で不安定な状況にあることから、中国としても完備された内需体系の構築を急ぎ、国内の市場ポテンシャルを育成、刺激し高い品質の経済発展を進める必要があるとしている。

 グローバリズムは平時を前提とした考えであり、新型コロナウイルスのパンデミックという状況の中で、中国にとってもグローバリゼーションは既定路線ではなくなったと言えるが、今後の関心は内需拡大と海外進出(「一帯一路」)をどう調整していくかということになろう。

 中国が戦略的新興産業と位置付ける先端産業の動向からも目が離せない。中国は、経済の牽引力を「投資駆動」から「イノベーション駆動」へ転換することを狙っている。高等教育機関の重点化によりハイレベルの研究拠点を形成して集中的に支援する政策を実施するとともに、人材優先の戦略を打ち出し国家予算を潤沢に投入するなど、国として科学技術人材の育成も主導している。

 中国企業は、世界のハイテク市場で一段と存在感を強めている。米国が、5G で世界覇権を狙うファーウェイ(華為技術)や、英国で原子力発電プロジェクトを進める中国広核集団有限公司などの個別企業を対象に制裁を強めているのも理由がないわけではない。米国の圧力と対峙しながら、中国はどのような世界秩序を組み立てようとしているのか。日本は “三流国” に転落した、といった辛辣な見方もある中で、米中対立の今後を見通すうえでも、また内需拡大が国の方針として打ち出された中国市場における日本企業の存立の可能性を探るうえでも、中国の先端産業の動向を把握することはこれまで以上に重要となってきた。

 本書では、「中国製造 2025」の中で戦略重点分野としてリストアップされた、中国が戦略的新興産業と位置付ける各産業の実態に迫った。具体的には、次世代情報通信、新エネルギー車、航空・宇宙、エネルギー、新材料、バイオ医薬─の各産業に加えて、「『コロナ外交』」による一帯一路の推進」と「中国のコロナ対策」をまとめた。

Pagetop

 目次

第 1 章 次世代情報通信
 中国の次世代情報通信規格「5G」の現状
 各国で 5G 基地局インフラ整備が加速
 5G 基地局設備のシェア動向
 5G 対応モバイル端末シェア、中国企業が 60%
 情報化の政策・計画
 活発な 5G サービスの社会実装
 5G 技術で影落とす米国の制裁

第 2 章 新エネルギー車
 新エネルギー車に努力傾注する中国
 中国政府の新エネルギー車産業政策
 新エネルギー車産業の発展の歩み
 自主開発能力向上が最重要課題に
 政府が新エネルギー車市場参入を後押し
 新エネルギー車普及に本腰
 着々と進むインフラ整備支援
 地方政府も新エネルギー車支援に積極的
 「第 14 次 5ヵ年」計画を見据えて
 燃料電池自動車商用車の導入を支援
 新エネルギー車のインフラ整備加速へ
 自動運転技術の公道実証促進も

第 3 章 航空・宇宙
 航空・宇宙事業は重要な国策
 「陸」と「海」に加えて「空のシルクロード」まで拡張
 「航空強国」の構築めざす
 2019 年の旅客回転量が前年比 9.3%増
 各種用途の航空機を開発
 航空エンジン・ガスタービンの自主開発が国家目標に
 宇宙強国に邁進する中国
 新しい打上げ用商業ロケット
 政府の方針踏まえ産学連携強化へ

第 4 章 エネルギー・原子力
 IEA がコロナによるエネ投資の減速を懸念
 「第 14 次 5ヵ年」計画期の電力計画の検討がスタート
 「エネルギー法」の最終ドラフトを公表
 石炭火力発電所の建設抑制へ
 2020 年の石炭火力規模を 11 億 kW 以内に抑制
 再生可能エネルギーの重点開発が鮮明に
 原子力は安全確保を最優先に開発
 「第 14 次 5ヵ年」期は毎年 6~8 基の原発に着工
 国内外での原子力発電プロジェクトの拡大に向け布石
 原子力発電プロジェクトの品質管理強化へ
 各種第 4 世代炉開発に注力

第 5 章 新材料(グラフェン材料、超伝導材料など)
 1.グラフェン材料
  中国国内のグラフェン市場
  中国国内のグラフェン技術開発現状
  中国のグラフェン技術の今後の発展方向性
 2.超伝導材料
  中国国内の超伝導材料市場
  中国国内の超伝導技術開発現状
  中国の超伝導技術の今後の発展方向性
 3.炭素繊維
  中国国内の炭素繊維市場
  中国国内の炭素繊維技術開発の現状
  中国の炭素繊維技術の今後の発展方向性
 4.積層造形用材料
  中国国内の積層造形用材料市場
  中国国内の積層造形技術開発の現状
  中国の積層造形技術の今後の発展方向性

第 6 章 医薬製造
 中国の生物医薬産業の市場規模
 生物医薬産業の地理的配置
 先端医療機器の外国依存が高医療費の原因
 医療機器産業の地域分布
 生物医薬・医療機器分野の研究開発状況
 中国における医薬産業関連主要政策
 地方政府も続々と支援策
 先端医療機器の国産化に向け政策打ち出す
 新型コロナウイルスの生物医療・医療器械産業への影響
 中医薬の研究開発と産業チェーンのアップグレード
 新薬・医療機器の研究開発加速へ
 新型コロナの影響で医療機器のニーズが拡大
 ロボットと 5G 技術に基づく医療情報技術
 生物医薬産業発展のロードマップとイノベーション
 医療機器イノベーションセンターを設立

第 7 章 「コロナ外交」による「一帯一路」の推進
 広域経済圏構想「一帯一路」
 西欧とアジアをつなぐ「シルクロード経済ベルト」
 もう一つの道「海のシルクロード」
 「一帯一路」建設に用意された莫大な資金
 政府、国有企業、民営企業による官民連携型展開
 代表的な国有企業によるプロジェクト
 通信分野に代表される民営企業プロジェクト
 新型コロナウイルス感染症の「一帯一路」政策への影響
 「コロナ外交」と「一帯一路」
 網の目のように世界中に届く「防疫物資」
 マスク、検査キットを大量に出荷したが、返品も相次ぐなど警戒も
 医療チーム派遣
 治療薬、ワクチンにおける技術協力
 中医薬でのコロナ肺炎治療に関するノウハウ提供
 コロナ対策マニュアルの多言語化と提供
 シルクロード経済ベルトでのコロナ外交
 21 世紀海上シルクロードでのコロナ外交

参考:中国のコロナ対策
 予防と管理に関する科学的知識の普及
 社会的隔離と交通管制
 厳重なチェックと動態モニタリング
 診療プランと応急処置能力
 資源の割り当てと物資の保障

Pagetop

 お問い合わせ

日本テピア株式会社 テピア総合研究所