2008年発刊
「中国原子力ハンドブック2008」
当刊行物の概要
日本テピア株式会社は、日・中両国に拠点を置くテピア・グループの中核企業として、中国国内の独自のネットワークを活かし、エネルギー・環境・水分野において総合的な調査・コンサルティング事業を展開しています。テピア・グループの専属シンクタンクであるテピア総合研究所はこのほど、世界が注目する中国の原子力の状況を初めて体系的に網羅した「中国原子力ハンドブック2008」を刊行する運びとなりました。2006年から2007年にかけて公表された原子力国家計画だけでなく、許認可手続きや原子力安全確保の現状など、中国の原子力を理解するうえで欠かせない基本的な情報も盛り込まれています。
中国国家発展改革委員会が2007年11月に公表した「原子力発電中長期発展計画」は、2020年までに原子力発電所の運転設備容量を4000万kWに拡大するとともに、同年における建設中の設備容量を1800万kWにするとの具体的目標を掲げました。また、「PWR-高速炉-核融合炉」の炉型戦略に加えて、使用済み燃料の再処理・リサイクル路線の推進も改めて確認しました。
一方、「原子力産業『第11次5ヵ年』発展計画」では、中国の原子力産業が抱える課題が分析されているほか、放射線利用技術の促進を含めた原子力技術の応用拡大・産業プロセスの加速、基礎強化と科学技術の革新能力の向上など、中国として原子力産業をどのように発展させていくかという方向性が明らかにされました。
中国の原子力の現状と将来に関心をお持ちの方は、是非ご一読いただきますようご案内申し上げます。
当刊行物の目次
第1章 中国のエネルギー・環境情勢
1-1 中国初の「エネルギー白書」公表
1.エネルギーの現状
(1) エネルギー資源
(2) エネルギー供給
(3) エネルギー消費
2.エネルギー開発の戦略と目標
3.エネルギー供給能力の改善
(1) 秩序ある石炭産業の発展
(2) 電力の積極的な発展
(3) 石油・ガスの加速発展
(4) 再生可能エネルギーの全力をあげた発展
(5) 農村地域でのエネルギー開発の改善
4.エネルギー技術開発の推進
(1) 省エネ技術の普及
(2) 主要技術の革新の推進
(3) 機器製造水準の向上
(4) 最先端技術と基礎科学分野の研究強化
5.エネルギー体制改革の深化
6.エネルギー分野での国際協力の強化
1-2 IEAによる中国のエネルギー見通し
1.エネルギー需要
(1) 一次エネルギー需要、2030年までに倍増
(2) 石炭のシェアに変化なし
(3) 中国が世界最大の新車市場に
2.エネルギー供給
(1) 石油・天然ガスの供給不足が顕著に
(2) 発電用炭の需要が急増
(3) 非化石燃料の柱に原子力と再生可能エネルギー
3.エネルギー投資
4.電力供給の見通し
(1) 発電設備、2020年に13億kW
(2) 変わらない石炭火力偏重
(3) 中国の原子力発電目標達成に懐疑的
(4) 風力発電、2030年に4900万kW
(5) 石炭に次ぐ原子力の価格競争力
1-3 エネルギー発展「第11次5ヵ年」計画
1.「第10次5ヵ年」計画期のエネルギー需給
(1) 一次エネルギー生産
(2) 一次エネルギー消費
2.「第11次5ヵ年」計画の方針と目標
3.重点プロジェクト
(1) エネルギー基地建設プロジェクト
(2) エネルギーの貯蔵・輸送プロジェクト
(3) 石油代替プロジェクト
(4) 再生可能エネルギー産業化プロジェクト
(5) 農村地域での新エネルギー・プロジェクト
4.省エネルギー
1-4 エネルギー法案の公表
1-5 環境
1.環境問題に高い関心
(1) 80%の人が環境汚染を懸念
(2) 深刻さ増す中国の環境問題
2.環境保護「第11次5ヵ年」計画
3.気候変動国家方案
(1) 気候変動の兆候
(2) 気候変動戦略目標
4.エネルギーと環境の協調
第2章 原子力開発の現状と計画
2-1 原子力発電中長期発展計画
1.2020年までに4000万kWへ拡大
2.原子力発電拡大の意義
(1) 国家エネルギー安全保障
(2) エネルギー構造調整・環境改善
(3) 国内製造業の水準向上・科学技術の進歩
3.原子力発電発展の原則、方針、目標
(1) 自主化・国産化の推進
(2) 「PWR-高速炉-核融合炉」路線の堅持
(3) 自主化産業体系の構築
(4) 競争入札でコスト低減
4.中長期発展計画の重点内容
(1) 第3世代炉(AP1000、EPR)の導入
(2) 第3世代炉の国産化
(3) 原子力発電設備の年間生産能力400万kWへ
(4) 原子力発電設備の調達基準を明確化
5.原子力発電所の建設計画
(1) 5000万kW分の立地点を確保
(2) 「第11次5ヵ年」計画(2006~2010年)
(3) 「第12次5ヵ年」計画(2011~2015年)
(4) 「第13次5ヵ年」計画(2016~2020年)
6.税制・投資優遇措置
7.原子力専門企業による運転・技術サービス体系の構築
2-2 原子力産業「第11次5ヵ年」発展計画
1.「第10次5ヵ年」計画期間中における成果
2.中国原子力産業の課題
3.原子力技術の応用拡大・産業化プロセスの加速
(1) 中堅企業育成に力点
(2) 放射線利用技術の促進
4.基礎強化と科学技術の革新能力の向上
(1) 原子力技術研究基地の建設
(2) 原子動力研究試験基地の建設
(3) 核燃料サイクル関係の研究開発基地の建設
(4) 原子力基礎科学研究の強化
(5) 核融合
2-3 加圧水型(PWR)原子力発電所の基準体系構築に関
する「第11次5ヵ年」計画
1.2020年までのPWR路線は既定
2.原子力発電基準・規格体系構築を重視
3.原子力発電基準・規格の現状
4.原子力発電基準・規格の問題点
5.原子力発電基準・規格の国家目標
6.原子力発電基準・規格作成の具体的作業
(1) 原子力発電基準・規格体系構築の全体設計
(2) 原子力発電専門基準の研究・作成
7.原子力発電基準・規格作成の作業体制
2-4 核燃料サイクル
1.リサイクル政策の堅持
2.核燃料サイクル・フロントエンド
(1) ウラン資源
(2) 製錬・転換
(3) ウラン濃縮
(4) 核燃料の成形加工
3.核燃料サイクル・バックエンド
(1) 再処理
(2) 放射性廃棄物の処理・処分
(3) 廃止措置
2-5 新型炉開発
1.高温ガス炉
(1) 高温ガス炉実験炉「HTR-10」
(2) 高温ガス炉発電所に着工
2.高速炉
(1) 実験炉臨界は2009年
(2) 実験炉以降は未定
3.超臨界圧水炉
2-6 中国の原子力予算
1.不透明な財政
2.2006年度予算と2007年度予算案
(1) 予算の透明性向上に本腰
(2) 科学技術支出
(3) 2007年度予算案の科学技術関係
3.原子力予算
(1) 原子力予算は非公開
(2) 商業プロジェクトに政府が資金援助
2-7 核不拡散政策
1.原子力汎用品・技術の輸出規定を改定
2.中国の核不拡散政策
第3章 原子力発電の現状
3-1 原子力発電所の実績
1.11基・900万kWが運転中
2.良好な運転実績を達成
(1) 2006年の原子力シェア1.93%
(2) 計画外停止、過去最少の2件
(3) レベル2以上の事象はゼロ
3.秦山Ⅰ期の長寿命化
3-2 原子力発電所の運転・管理
1.各原子力発電所間で運転経験を共有
2.嶺澳Ⅱ期では18ヵ月運転サイクルへ
3-3 原子力発電所の建設費と国産化
1.建設コスト削減に向け国産化率引き上げが急務
2.国産化にあたっての問題点
(1) 原子力発電計画の不統一
(2) 多元的な開発体制
3.中国標準型炉では主要設備の85%を国産化
4.AP1000型炉の国産化
3-4 原子力発電所の投資・収益
1.5大発電事業者が原子力参入に意欲
2.原子力発電所建設資金の調達
(1) 資金調達の現状
(2) 原子力投資ファンドを設立
3.投資の回収
4.原子力発電所の卸売電気料金
(1) 「事後定価」・「一所一価」制を採用
(2) 原子力発電所の価格競争力
5.新規着工原発の建設資金総額は6兆7500億円
6.建設資金調達の政府方針
7.事業者の動き
8.外資導入指針を改定
3-5 住民運動の胎動
3-6 主要原子力(発電)事業者
1.中国核工業集団公司
2.中国広東核電集団
3.中国電力投資集団公司
4.中国核工業建設集団
第4章 原子力発電機器供給・核燃料サイクル産業
4-1 原子力発電機器供給産業の現状
1.原子力発電機器供給能力
2.原子力発電設備製造の自主化戦略
4-2 原子力発電設備国産化の課題
1.品質保証体制の不備
2.原子力専門企業の不在
4-3 原子力発電プラントメーカー
1.主要メーカー
2.上海電気集団股?有限公司
(1) 上海電気の概要
(2) 上海電気重工集団
(3) 原子力発電設備製造能力の拡張
3.東方電気集団公司
(1) 東方電気の概要
(2) 原子力発電事業部門
(3) 原子力発電設備の製造能力
4.ハルビン電站設備集団公司
5.中国第一重型機械集団公司
6.大連重工・起重集団有限公司
7.瀋陽送風機有限公司
8.原子力用バルブメーカー
4-4 核燃料サイクル産業
1.ウラン資源
2.ウラン濃縮
3.核燃料の成形加工
第5章 原子力産業従事者の現状と見通し
5-1 原子力工学教育の現状
1.需要に追いつかない人材供給
2.事業者が大学教育を支援
5-2 政府の原子力人材開発の方針
1.原子力発電専門学科を設置へ
2.深刻な人材不足
5-3 産業界による人材育成
5-4 原子力発電所の運転員・要員訓練
1.原子力発電所運転員の訓練と資格審査
2.中国の原子力発電訓練センター
(1) 秦山原子力発電訓練センター
(2) 大亜湾原子力発電訓練センター
(3) 西安交通大学原子力発電訓練センター
5-5 規制当局の人員確保
第6章 エネルギー・原子力行政
6-1 エネルギー行政
1.エネルギー政策の立案
2.投資プロジェクトの審査・認可制の改革
(1) 投資体制改革に関する国務院決定
(2) 原子力発電投資プロジェクトの承認
6-2 原子力行政
1.原子力政策の立案
2.原子力プロジェクト
6-3 主要原子力機関
1.国家核電技術公司
2.中国原子力産業協会
第7章 原子力安全確保と防災
7-1 原子力安全
1.安全規制体制
2.許可証制度
3.原子力・放射線安全規制機関の任務
(1) 国家核安全局
(2) 国家環境保護総局
(3) 衛生部
4.原子力安全監督
5.国家原子能機構による安全管理
6.原子力安全文化
7-2 原子力防災
1.原子力緊急時対応システムの運用開始
2.原子力緊急時の対応体制
(1) 国家原子力事故緊急調整委員会
(2) 国家原子力事故緊急事務局
(3) 原子力発電所所在地の省政府の原子力事故緊急
委員会
(4) 原子力発電所の原子力事故緊急時対応組織
3.原子力発電所の所内及び所外緊急時計画
(1) 事業者、地方政府、国レベルでの緊急時計画作成
(2) 原子力事故緊急報告制度
(3) 住民に対する教育と模擬訓練
7-3 原子力損害賠償額の変更
第8章 原子力関連法規
8-1 中国の原子力法体系
1.「原子力法」は未制定
2.国務院行政法規
3.部門規則・指針等
8-2 現行原子力法体系の問題点
(中国の原子力関係の主な法律・法規・指針)
第9章 原子力発電所の許認可
9-1 許認可手続きの枠組み
1.地元政府・関連政府部門の役割
2.原子力発電所の立地
3.原子力発電所の建設
4.原子力発電所の試運転
5.原子力発電所の運転
6.原子力発電所の廃止措置
9-2 実行可能性研究
1.初期実行可能性研究
(1) 電力系統
(2) 立地点の選定
(3) 工事計画案
(4) 環境保護
(5) 経済分析等
2.実行可能性研究
(1) 廃止措置
(2) 品質保証
9-3 原子力発電所の立地点選定
1.原子力発電所立地点選定に関する法規と要求
2.立地点指定前の手続き
9-4 原子力発電所の設計と建設
1.原子力発電所の設計に関する法規・要求
2.設計資格と建設許可の審査承認手続き
3.原子力発電所の運転法規・要求
(1) 原子力発電所の運転法規・指針
(2) 原子力発電所の運転許可証の審査・承認手続き
(3) 原子力発電所の燃料初装荷承認書の審査・承認
手続き
(4) 原子力発電所の運転許可証の審査・承認手続き
【参考資料】 ※全訳を掲載(一部表を除く)
1.原子力発電中長期発展計画(2005~2020年)(「核電中長期発展規劃」、国家発展改革委員会、2007年10月)
2.原子力産業「第11次5ヵ年」発展計画(「核工業"十一五"発展規劃」、国防科学技術工業委員会、2006年8月)
3.加圧水型(PWR)原子力発電所の基準体系構築に関する「第11次5ヵ年」計画(「圧水堆核電廠標準体系建設"十一五"規劃」、国防科学技術工業委員会、2007年9月)
4.原子力事故の損害賠償責任問題に関する国務院の回答(「国務院関干核事故損害賠償責任問題的批復」、国務院、2007年6月)
5.中華人民共和国放射性汚染防止法(「中華人民共和国放射性汚染防治法」)
6.中華人民共和国核材料管制条例
7.原子力発電所の立地点選定に関する安全規定(「核電廠廠址選択安全規定」)
8.民生用核燃料サイクル施設安全規定(「民用核燃料循環設施安全規定」)
9.原子力発電所基本建設環境保護管理弁法(「核電站基本建設環境保護管理弁法」)
【巻頭言】(訳)
張 坤民 元中国国家環境保護局 副局長
現
北京大学
清華大学
人民大学
復旦大学 等 教授、博士指導教官
中国国家環境保護総局科学技術委員会 委員
中国持続可能発展研究会 副理事長
国際環境発展学院(LEAD)中国理事会 理事
中国政府は2006年から2007年にかけて、中国の原子力の将来を左右する3つの計画を公表した。時系列で並べれば、「原子力産業『第11次5ヵ年』発展計画」(「核工業"十一五"発展規劃」)、「加圧水型(PWR)原子力発電所の基準体系構築に関する『第11次5ヵ年』計画」(「圧水堆核電廠標準体系建設"十一五"規劃」)、「原子力発電中長期発展計画」(「核電中長期発展規劃」)である。このうち「原子力発電中長期発展計画」では、2020年までに原子力発電設備容量を4000万kWに拡大するとともに、建設段階にある原子力発電所の設備容量を1800万kWにするとの具体的な目標を掲げている。
中国が掲げた目標に対して、経済協力開発機構・国際エネルギー機関(IEA)は、懐疑的な見方をしており、2020年時点では2100万kWの達成が現実的であると予測している。しかし私は、2020年に4000万kWという目標を達成することは、決して不可能ではないと考えている。前述した計画を良く読めば、困難を克服するために、中国が今、どのような努力を払おうとしているかが良く分かり、こうした目標についても深く理解されるに違いない。
中国が世界のエネルギー安全保障にとっての脅威であるとの懸念あるいは非難が一部にある。しかし、中国の1人あたりのエネルギー需要は、2030年になっても、OECD加盟国平均の半分に過ぎない。国の発展に加え、大国としての責任を果たすため、「省エネ優先を堅持し、国内に軸足を置き、科学技術に頼り、環境を保護し、相互に利益となる国際協力を強化する」ことが中国のエネルギー戦略である。こうした戦略にとって欠かせないのが、温室効果ガスを排出しない原子力発電開発を積極的に推進することであり、「低炭素経済」を推進するという現在の世界的な潮流とも合っている。
フランスや米国、日本等は、原子力発電利用に成功を収めた。しかし、原子力発電開発が1国のみで自主的に成し遂げられる時代は終わった。私は、中国として、日本から学ぶべき多くのことがあると考えている。日本の原子力関係者が中国の原子力の現状を多方面にわたって理解することは、中国の健全な原子力発電の発展にとっても同様に重要である。
原子力発電は、公開されている、原子力平和利用における1つの民生プロジェクトである。テピア総合研究所がこのほど編集した「中国原子力ハンドブック2008」は、最新の公開資料を収集しこれをベースとしているため、中国の原子力の現状と将来について、ほぼ余すところ無くまとめて分析しており、極めて有意義である。本リポートは、その内容の広さ、深さ、そしてタイミングという点においても当を得た価値あるリポートということができる。
中国がまさに原子力発電の飛躍的な発展を遂げようとしている今、中国の現状を把握し、中国の掲げる目標を理解するため、原子力関係者にとどまらず、中国のエネルギーに関心を持たれる日本の多方面の方々が本リポートを読まれることを強く希望する。同時に、日本の原子力の現状を把握できる中国語による「日本原子力ハンドブック」をまとめることができれば、中国の読者から必ずや歓迎を受けると確信している。
2008年1月
張 坤民
元 中国国家環境保護局 副局長
現
北京大学
清華大学
人民大学
復旦大学 等 教授、博士指導教官
中国国家環境保護総局科学技術委員会 委員
中国持続可能発展研究会 副理事長
国際環境発展学院(LEAD)中国理事会 理事
推薦の辞
中国に対する世界の関心は日に日に高まっている。その理由の一つに中国のエネルギー資源獲得の世界戦略がある。国際エネルギー機関(IEA)の著名な定期刊行物である「World Energy Outlook 2007」においても中国とインドのエネルギー事情が大きく扱われており、このことからも関心の高さは明らかである。これは世界のエネルギー需給問題が両国のエネルギー戦略を抜きにしては語れないということを物語っており,この傾向は今後ますます増幅されるだろうと思われる。そして関連する諸々の指標から判断する限り、良くも悪くも中国の影響力の大きさは際立っていると見て差し支えないだろう。
中国は、エネルギー資源の絶対量には恵まれてはいるが、1人あたりの平均に直せば世界平均を大きく下回るという事実は案外知られていない。中国が、安易に燃やせる石炭が豊富に存在する事情を反映して、エネルギー需要を石炭に過剰に依存している状況は、様々な環境問題を引き起こしている。中国が「国民経済・社会発展『第11次5ヵ年』計画」の中で、20%の省エネと同時に汚染物質の排出量を10%削減する方針を打ち出したのも、一人当たりの限られたエネルギー埋蔵量と有害物質の環境放出といった問題を考えてみれば必然の措置であろう。
そうした視点に立てば、中国が,現在意欲的に原子力発電所の建設・計画を進めていることは理に適っているだけでなく,地球温暖化防止対策の一環としても歓迎されるべきである。中国は2020年までに原子力発電設備容量を4000万kWまで拡大する計画であると聞くが、中国がどのような体制のもとで、またどのような方針のもとで原子力発電の開発を進めようとしているのか、大方の関心事ではある。しかしながら,残念なことに、アジアの原子力先進国であり、また中国の隣国である日本の関係者は長い間このことに無関心でいた。そのために、関心を持って接触していれば確保できたであろう便益を、みすみす失ってきたと思われることは大変惜しまれることである。
日本は、「中長期的にブレない確固たる国家戦略と政策的枠組みを確立」していることに加えて、「国際情勢や技術の動向等に応じた戦略的柔軟さを保持する」ことを原子力政策の基本方針としている。中国がこの2年ほどの間に公表した原子力に関する国家計画を調べて見ると、まさに日本と同じ方針で原子力発電の開発を進めようとしていることが良く理解できる。このような状況を正確に伝えてくれる資料が身近にあればどれほど有益かと思われる。
また、日本と同じく核燃料リサイクル路線を堅持する中国にとって、日本の経験が大きく役立つことは論を俟たない。原子力関係者の間で情報交換が望まれるところである。中国の原子力界が総合的な技術力を確保しつつ健全な発展を達成していくことは、日本にとっても大きな利益となるばかりでなく,原子力関連設備の安全問題を共有し安全性を確実に担保して行く視点からも極めて重要である。そのためにも、日本の関係者としては、何よりもまず中国の原子力開発の現状について正確な情報を得ながら正しい認識を持っておく必要がある。そうした意味からも、今回、テピア総合研究所がとりまとめた本リポートは、有益でしかも確かな情報を提供してくれる。産官学を問わず、日本の原子力関係者および原子力に関心を持つ者にとって必読のリポートと言えるであろう。
とくに、中国の原子力ロードマップと位置付けられる3つの計画(「原子力産業『第11次5ヵ年』発展計画」、「加圧水型(PWR)原子力発電所の基準体系構築に関する『第11次5ヵ年』計画」、「原子力発電中長期発展計画」)の全訳は、非常に有益である。また、「原子力発電所の立地点選定に関する安全規定」は、現在我が国で重要な課題となっている耐震性も含めて、中国が原子力安全に対してどのような基本的姿勢で取り組んでいるかを知るうえで極めて興味深い内容となっている。
このような観点から、本リポートは、今後中国と技術協力・開発協力を手がけていく者や、中国のエネルギー事情に関心を持つ者にとって、極めて有用な情報を提供してくれるものと確信している。よって、ここに推薦するしだいである。
2008年1月
東京大学名誉教授 宮 健三
日本保全学会会長