投資家の注目集めるバングラデシュの不動産市場
2013年11月21日
10年間の平均経済成長率は年平均6%を維持
バングラデシュはアジア最貧国と言われており、最低月賃金もタイの約300米ドル、インドネシアの約230米ドル、ベトナムの113米ドルに対して、約40米ドルときわめて低い水準となっている。また、農村人口が全体の80%を占める上に、経済成長に比してインフラ整備が追いついておらず、いまだ世帯電化率は約50%にとどまる。
その一方で、過去10年間の平均経済成長率は約6%を維持しており、人口も現在の1.6億人から2020年には2億人まで上昇することが予想され、そのトレンドは今後数十年続いていくと考えられている。この事実から、バングラデシュにおける不動産は、近年、各国投資家の注目を集めている。
都市部の不動産価格が10倍以上に
都市部の不動産価格もここ5年で10倍以上の伸び率を記録し、インカムゲインで10%以上の利回りを得ることができると言われている。さらに、ビジネス需要に比べてビルの供給が間に合っていない。実際、ダッカの金融街であるモティジールなどを見ても高層ビルは数えるほどしか見当たらず、アジア一の人口密度を誇る首都ダッカの経済力を吸収できていないのが現状であり、今後不動産市場はより熱気を帯びていくことが予想される。バングラデシュの不動産市場は、現時点では他のアジア諸国よりも外資規制が緩やかである。具体的には、①現地法人を設立すれば、外資企業でも土地を所有することができる(個人は不可)、②利益を親会社に送金することが比較的自由に行うことができる、③外資が現地不動産投資をおこなうことに特に事前の申請は必要ない、④現地銀行融資も現地企業と同様の手続きを受けることができる――などである。
避けられない地震のリスク
一方で、バングラデシュでは不動産仲介業が成熟しておらず、相対取引を行うことが多い。したがって、不動産所有権や立地、その他リスク、価格交渉などを慎重に見る必要があり、ベンガル語と現地不動産事情を十分理解しない状態では、予定通りの投資を行えるという保証ない。このため、日・バングラデシュ不動産投資コンサルタント業の数が増加している。有能なコンサルタントに依頼することで大部分のリスクは回避できるが、特に気をつけなければならないのは地震のリスクである。国際協力機構(JICA)は、「バングラデシュは、世界でも最も地震が多く発生する地域のひとつであるヒマラヤ地域に位置し、地震の潜在的危険性が広く認識されている。同国に最も甚大な被害をもたらした地震として、1897年のインド大地震が挙げられるが、こうした大地震の発生はこれまで100年周期で発生してきているという特徴があり、近年の周辺国で頻発する地震災害(例:スマトラ島沖地震(2004年)、パキスタン地震(2005年)、四川大地震(2008年)等)により、同国における地震災害に対する対策の必要性が高まっている。」と指摘している。現在がその地震発生周期にあたり、この事実は意外に知られていない。
ダッカ市内にある高層建築物の多くが建築基準を満たしておらず、マグニチュード6クラスの地震でも50%以上、7クラス(阪神大震災規模)の地震が襲った場合90%以上、8クラス(関東大震災や東南海地震に相当)ではほぼ全部が倒壊するとの調査結果をダッカ国内紙がまとめている。そうした背景には、自然災害に対して強靭であるべき公共建築物の約5000棟のうち約3000棟以上が、現行の建築基準法が策定される1993年以前の基準や規制がない時に建設されており、近年に建設された建物より自然災害に対して脆弱であるという理由がある。 さらに、ダッカは海抜2-11mのデルタ地帯にあり、地盤の脆弱性に加え、海面上昇による将来の水没リスクも指摘されている。
マクロ的な視点で不動産投資判断を
バングラデシュ不動産投資に関しては自然災害リスクを加味する必要がある。ダッカ市内の物件を例にあげれば、グルシャン/バリダラエリアなど外資企業駐在員や現地富裕層が多く集まるエリアの分譲マンションなどを購入、3年程度の短期で確実にキャピタルゲインを狙える地域への投資を行うやり方がある。一方でダッカ市内及び近郊で、モノレールや高速道路計画も加味しながら値上がりが期待できる土地を購入する方法もある。災害に弱い建物への長期投資は極力避けるべきである。保険市場も整っていない同国の不動産投資に関しては、短期回収を基本とし、現地土地開発事情に精通したコンサルタントを通して土地購入を行うのが現状から見てベターな選択と考えられる。
一般の不動産投資熱とは切り離して、災害リスク等を加味しながら、冷静な目で投資を行わなければならない。一方で、特別な資産を持たないライフラインにかかわる企業、事業に関しては、現時点では企業財務内容に比して非常に割安であり、不動産以外の投資案件に関してもリスクを分散させる意味で検討、ウォッチするマクロ的な視点がバングラデシュの投資を考える上でより重要である。
(江本 真聰)
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