中国企業による日本企業買収の概況と課題
2013年7月31日
2012年で日中国交正常化40周年を迎えました。過去40年間にわたり、日中間の経済貿易規模は拡大し続けています。また、日本にとって中国は最大の貿易相手(対中輸出1,615億ドル、対中輸入1,835億ドルで輸出入とも第1位)となっています。一方で、2011年の財務省貿易統計(香港含まず)によれば、中国にとって日本は、米国に次ぐ2番目の貿易相手国(対日輸出は1,483億ドルで第2位)であり、輸入は1,946億ドルで第1位)となっています。
また、2011年の統計では、日本企業の対中投資額を見ると、中国にとって日本は第1位の投資国(63.5億ドル)で、外国からの投資全体の5.5%を占めています。中国への日系進出企業数は2011年末で2万2,790社となり、米国の約2万855社を抜いて第1位となっています。中国の外資企業全体(28万8,856社)に占める日本企業の割合は7.9%に達しています。
一方で、近年、中国企業は急激なスピードで対外投資を拡大しています。そこで、今回は、中国企業による対外(日)投資/買収の現状と課題を整理してみました。
1、中国企業による対外投資/買収の現状
①2002年は中国のM&A元年と言われています。中国では国内産業の高度化、資源確保の要求、潤沢な外貨準備、金融危機後の世界経済低迷等を背景に対外投資/買収が急拡大しました。
2011年度、中国企業の対外投資額(金融除く)は685.8億ドルとなり前年度より14%増加しました。一方、対外直接投資累計総額(ストックベース)は4,247.8億ドルと、前年末より順位を4つ上げ、世界第13位になりました。しかし、その規模はアメリカの対外投資総額の僅か9.4%、イギリスの24.5%、ドイツの29.5%、フランスの30.9%、日本の44.1%程度です。ここからも分かりますように、中国は高い対外投資規模拡大の潜在力を有しています。
②中国企業による対外投資/買収の目的は多様化しています。資源確保の他、技術・管理ノウハウ・ブランド力の獲得、市場進出等も重要な目的となっています。
2011年度までに、1万3,500社の中国企業が、177ヵ国・1万8,000社の海外企業に対して投資/買収を行いました。投資/買収先を国・地域別で見ると、発展途上にあるアジア地域が中心ですが、資源を確保するため、オーストラリアは常に上位を占めています。また、法人税の優遇制度を利用するため、香港・バージン諸島・ケイマン諸島・シンガポールもまた常に上位を占めています。
投資側の中国企業の対外直接投資額のトップ3社(中国石油化工集団公司、中国石油天然ガス集団公司、中国海洋石油総公司)は、すべて石油関連企業です。第7位の中国五鉱集団公司は鉱物資源、第9位の中国アルミ公司は国有企業であり、資源関連の中央企業が活発な対外投資の牽引役となっています。
2、対日投資/買収の現状と課題
①かつて欧米企業が対日買収の主役でした。しかし中国企業は対日買収件数を増やし、2010年にはアメリカを抜いて対日M&A件数が世界一となりました。
2007年~2011年10月までに公開された中国企業による46件(出所:長江商学院)の対日買収を整理すると、以下の傾向があることが分かりました。
●業種:中国企業による対日買収案件の対象業種は、製造・エネルギー・IT・アパレル・サービス業界に集中。特に製造業の件数は全体の50%と最も高い。次いでITが26%、サービス9%、アパレル5%。
●金額:5,000万ドル以下の案件が全体の54%(未公開を除く)。
●買収目的:「市場開拓」と「技術・ノウハウの獲得」がそれぞれ44%、29%。
●買収のシェア:51%~100%の経営権獲得シェアが全体の60%を占める。これは中国企業による対外買収の特徴の一つと言える。
●買収側中国企業の特徴:8割は民間企業であり、上場企業が6割を占める。
●被買収側日本企業の特徴:設立20年以上の企業が7割を占める。
②中国が世界一の対日投資/買収国(件数ベース)となった2010年の翌年2011年から、中国企業による日本企業買収の勢いが減速しました。その要因としては、以下のことが考えられます。
●日本マーケットにあまり魅力がない
・成長性:少子高齢化、景気低迷などにより、日本市場の拡大はあまり見込めない。日本市場より成長の著しい新興国の方が中国企業にとって魅力的。
・コスト:賃料・人件費・税金・物流コスト等が総じて高い。
・政策:規制が厳しく、優遇政策が少ない。
しかし、日本企業の「品質管理」、「経営管理」、「技術力」に対しての評価は高いと言えます。対中経験豊富な仲介会社を通して、円滑なコミュニケーションにより信頼関係を築き、日本企業の価値を正確に理解してもらう努力も必要です。
●日本企業の対中警戒感の高まり
「中国脅威論」がマスコミで多く取り上げられ、中国進出や中国企業との提携に伴うハイテク技術の流出、日本国内での産業の空洞化等の懸念により、日本では中国企業に対する警戒ムードが高まっています。
対中経験豊富な仲介会社を通して、等身大の中国企業を理解する努力も必要です。
●日本企業の決断が遅い
日本企業と中国企業にはコミュニケーションや情報開示の仕方に違いがあります。日本企業の情報提供は慎重で正確ですが時間がかかります。また、組織内の議論に時間を要するため、M&Aを行う時の様々な決定が比較的遅いと言えます。一方、中国企業の作成する資料はやや雑ですが対応は早く、特に、M&Aなど重要な決断はトップが決めるケースがほとんどです。
今後、中国企業としては、グローバル化過程において、日本企業を含め、海外企業からの優秀な技術、緻密な管理およびブランド戦略等の経験を取り込んでいく必要に迫られています。
一方日本企業も、中国の新しい経済情勢、市場環境、企業経営の一層の理解に努め、双方が協力できる投資分野と発展領域を模索する必要があると言えます。
2012年以後の厳しい政治情勢の中、日中双方の優秀な企業家による対話と交流によって、新たな経済発展を生み出すことができると確信しています。
(黄海林)
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