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 タイ企業による日本の太陽光発電事業参入 ~日タイ間ビジネス構造に変化の兆し~

2016年9月8日

1980年代後半以来、四半世紀にわたって続いてきた日本企業のタイ進出ブームは、人件費高騰や政治不安等を背景に、徐々にその熱を失いつつある。一方、太陽光発電事業分野において、日本政府の再生可能エネルギーに対する固定買い取り価格制度(FIT制度)を狙ったタイ資本による日本への事業展開事例が増えている。投資「先」国から投資国へ―――。タイ資本の日本での事業展開に向けた環境が整いつつある。

タイのFIT制度は限定的に
タイ政府は、民間発電事業者からの電力買い取り制度を1992年に開始しており、2007年には従来の買い取り価格に固定プレミアムを上乗せする優遇制度「Adder」制度を導入したが、太陽光発電電力に対して最も高い固定プレミアム価格を設定したため、政府の想定を上回る数の案件が申請され、エネルギー価格への影響が懸念されるまでとなった。このため2010年には太陽光発電事業に対する新規案件受理が停止され、その後2013年に太陽光発電については従来のAdder制度より助成額の低いFIT制度に移行された。太陽光発電事業に対するFIT制度は、現在もルーフトップ型と政府機関および農業協同組合向けに限定して継続されているが、メガソーラーに対する割当はすでに終了し、新規の認可割当の取得は困難であることなどから、発電事業者にとってタイの太陽光発電市場の魅力はこの数年間で大きく減少している。

なお、売電を目的としない自家消費型太陽光発電の分野においては、日本の1.4倍以上の日射量やバンコク近郊を中心に立ち並ぶ大規模工場の屋根の存在により、タイは未だ魅力的な市場であるといえる。この数年間、EPC事業者、パネルやインバーター等の設備業者、保守・運用(O&M)事業者など、太陽光発電に関連した事業を行う日系企業のタイへの事業進出が多く見られ、この傾向は今後も当面の間続くものと見られる。

日本のFIT制度変更とタイ企業の進出
日本におけるFIT制度による買い取り価格も、タイと同様、電気料金への転嫁で家庭や企業の負担が重くなったことなどを背景に、順次引き下げられてきている。出力10kW以上の設備を持つ企業などによる太陽光発電の電力買い取り価格は、FIT制度が開始した2012年度には1kWhあたり40円であったが、2016年度には同24円にまで引き下げられた。この間、外資による日本の太陽光発電事業への参入が相次いだが、その中にはタイ企業も多く含まれている。その多くはエネルギー分野を本業とした企業による参入であったが、中には異業種による無関連多角化といえる投資もあり、日本の太陽光発電事業への投資はタイにおける一つのブームであったことが伺える。タイではメガソーラーに対するFITの新規取得が困難になっているのに比べ、日本では買い取り価格こそ引き下げられたものの、メガソーラーでのFIT制度自体が存在していることがその要因と考えられる。

スタンドバイL/Cの活用による資金調達
これらの太陽光発電事業投資案件の出現に伴い、タイ企業が対日直接投資を行う際のサポート環境も整備されてきている。ファイナンス面では、2015年9月に東京スター銀行がプレミア・ソリューション社(上表 上から1社目)の日本法人に対し、タイのカシコン銀行が発行するスタンドバイL/Cの活用により、太陽光発電事業開発に係る資金15億円の融資枠を設定した。スタンドバイL/Cは信用状の一種で、貿易取引の中で購入代金回収リスクを保証するために使用されるのが一般的だが、海外事業投資の資金調達に活用することで、進出先現地通貨での資金調達が容易になり、進出の際の課題のひとつである為替リスクを抑えることができる。これまでも日本企業のタイ進出時に利用されることはあったが、タイ企業が日本進出時に本制度を活用したケースとして注目される事例であり、今後、タイ企業の日本への事業投資が増えるに連れ、同制度の利用も増えていくものと思われる。

タイ企業による投資は今後も続くか
経済産業省は、2019年度までにFIT価格を現状からさらに2割程度引き下げる方針を示している。さらに昨今の為替も円高・バーツ安基調にあるため、この数年間に見られたタイ企業による同分野への投資が今後も同様に増えていくかは懐疑的である。しかし、太陽光発電事業で日本進出を果たしたタイ企業は、同事業で設置した拠点や、事業運営の過程で蓄積された日本でのオペレーションに関するノウハウや人材、円資金等の各種リソースを足がかりに、今後、本業やその他事業分野での日本における事業展開を図ることが可能となる。これまでの日タイ間のビジネス関係は日本企業によるタイへの事業進出の形態がほとんどであったが、タイ企業による一連の太陽光発電事業分野での対日投資は、この流れを変えるひとつの契機となる可能性がある。

(石毛 寛人)

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