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 過去の大地震の教訓を熊本地震の復興現場に活かす

2016年5月18日

4月14日、熊本県熊本地方を中心に最大震度7の大地震が発生した。我が国における東日本大震災以来初となる震度7(M6.5)を観測する大規模な地震である。さらに2日後の16日未明、同県の阿蘇や熊本を中心に、本震とされる震度7(M7.3)の地震が観測された。熊本県警によると本震直後、避難者が急増し、最多で18万3882人に上ったとされる。熊本県災害対策本部の発表では、一連の地震によって、5月13日までに、熊本では68名の死亡(内19名が関連死)と1655名の重軽傷者が確認され、また、住宅被害は、全壊、半壊、一部損壊を合計すると、8万1498棟に上り、5月14日時点で熊本県内の25の市町村では243か所の避難所に1万606人の避難者が報告された。

震災後、全国各地から避難所に向けて多くの支援物資が送り届けられた。今回の熊本地震では九州の大動脈である九州自動車道が寸断されたため、県庁等に届いた物資が各避難所まで届かず、倉庫内で山積みになったまま出荷されるのを待ち、倉庫の外では輸送に使われるトラックが列をなしている場面がテレビなどで放送された。避難所においては、プライバシーが十分に確保されず、着替えにも不自由するという、非常にストレスの大きい環境下で避難者が生活している。5年前に起きた東日本大震災でも支援物資の滞留や避難所における環境の悪条件は指摘されていたが、今回の熊本大地震で5年前の教訓や反省は生かされているのだろうか。

京都大学防災研究所巨大災害研究センターの林春男教授によると、地震発生から復興の時間経過は、被災者の心理状態の違いにより、以下の4段階のフェーズに分けられる。

<応急対応期>
フェーズ0(失見当期)地震発生~10時間
 被災者は自分の力だけで生き延びなくてはならない。組織的な災害対応ができない。
フェーズ1(被災地社会の成立期)10時間~100時間
 被災者同士で命を救う活動が中心。災害情報が入手可能になる。組織的な災害対応活動がはじまる。
フェーズ2(災害ユートピア期)100時間~1000時間
 助け合いの精神が顕著になる。社会機能の回復とともに、生活の支障が徐々に改善されていく。
<復旧・復興期>
フェーズ3(復旧・復興期)1000時間~
 人生と生活を再建する。破壊された街の復興、経済の立て直しがはじまる。

5月14日現在、地震発生からの時間の経過はフェーズ2(災害ユートピア期)末期である。フェーズ3に入るにあたり、東日本大震災における同時期の被災地の経験や被災者を中心とする復興に向けた取り組みの特徴を紹介する。

大災害時には女性・子どもに対する暴力が増加することが報告されている。東日本大震災後は、「東日本大震災『災害・復興時における女性と子どもへの暴力』に関する調査報告書」でも、具体的な被害数や被害者の経験が報告された。その事実に対応するように、各地で女性支援を明確に謳った支援活動が継続的に実施され、被災地に特化して、女性への暴力に関する電話相談サービスが提供された。

復興庁が取りまとめている「男女共同参画の視点からの復興 ~参考事例集~(第9版)」では、東日本大震災後の避難所等における93件の取組事例が紹介されたが、取組の目的ごとに分類した全6分類「まちづくり」「仕事づくり」「健康づくり」「居場所づくり」「人材育成」「情報発信」のいずれにおいても、被災女性が活発に取り組む事例が紹介されている。これらの多くは、避難所生活や仮設住宅等で生活する被災女性が避難所・仮設住宅の一角に交流の場を作り、落ち着いて話をすることでストレスを軽減させるという、自分たちの居場所をつくるための取組から始まるものが多い。

「居場所づくり」の取組の中には、編み物やアクセサリー作りなど、避難所でも入手できる材料を使って手作業をする取組や、さらには作製したものを販売し収入源につなげる「仕事づくり」の取組へと発展したものもある。震災によって生業や生きがいを失い避難所生活でこもりがちな女性は、このような活動に参加することで徐々に精神的な安定や、やる気を取り戻すケースが多く確認されており、支援団体や行政もそれらの取組の必要性を認めている。

限定的ではあるが、フェーズ3時期の仮設住宅や復興住宅における男性の「居場所づくり」や「健康づくり」のために実施される取組事例も確認されている。震災後、特に中高年の男性の孤立やアルコール依存症になりがちな傾向が報告されており、悪化すると家庭内や近所トラブルを引き起こす一因となることも指摘されている。孤立防止対策の取組として交流会等が開催されるが、男性が自主的に参加することが少ないため、孤立防止が進まず、健康状態の悪化を進行させるケースも少なくない。女性の「居場所づくり」の取組と比較して、自主的な参加者が少ない男性の「居場所づくり」の取組は、なかなか導入が進まない現実があるようだ。

「東日本大震災『災害・復興時における女性と子どもへの暴力』に関する調査報告書」以外にも、近年、災害時の女性支援に関する報告実績が目立つようになってきた。東日本大震災前の2008年、仙台のNPO法人であるイコールネット仙台が「災害時における女性のニーズ調査」を実施。その結果を踏まえて「女性の視点からみる防災災害復興対策に関する提言」をまとめたが、本提言はその後の災害・復興における男女共同参画の先進的な指針とされた。東日本大震災の復興現場では、女性支援に関連する取組報告事例は多くみられるが、他方で孤立する男性支援に関連する取組の報告は多くない。

復興庁や専門家の多くが現場における男女共同参画の視点を取り入れることの重要性を指摘している。熊本地震のフェーズ3期間においても復興現場で男女共同参画の視点が取り入れられることを期待するが、「男女共同参画」の視点を取り込む支援は、女性・子どもに対する支援はもちろん、孤立しがちな男性、見落とされがちになりやすい障害者や、不自由な生活に対して声を上げにくいセクシャル・マイノリティ等に対する支援をも含む、包括的な支援でなくてはならない。フェーズ3に入る熊本地震の復興現場では、過去の震災からの復興の教訓が十分に活かされることを願いたい。

テピア総合研究所

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