フィリピンにおける水支援のあり方
2014年1月17日
ヨランダによる台風被害
昨年11月、台風30号(フィリピン名:ヨランダ)がレイテ島を中心としたフィリピン中部を襲った。同国の国家災害対策本部によれば、1月9日現在、死者は6,190名。2万8,626名が負傷し、未だ1,785名が行方不明となっており、死者数は今でも増え続けている。また、55万戸以上の家屋が全壊、約60万戸が半壊し、依然多くの人々が避難所生活を強いられている。
ライフラインの復旧も大幅に遅れており、被害の大きかったレイテ島などを中心に現在でも電力が不足している地域がある。また、水供給システムもフィリピン中部のバナイ島アンティーケ州で40%、イロイロ市では70%の復旧に留まっている。
筆者は先日、ネグロス島の西ネグロス州を訪れる機会があった。ネグロス島は最も被害が大きかったレイテ島やセブ島の西隣に位置し、東北部の沿岸部や近辺の島しょ部はちょうど台風30号の進路に当たり、漁村を中心に甚大な被害を受けた。酷いところでは、家が跡形もなく吹き飛ばされ、海岸沿いの家々は海に飲まれ、漁船が転覆または行方不明となり、壊滅状態のエリアもある。これらのエリアでは救援物資が十分に行き渡っておらず、特に家屋の修理に必要な材料や飲料水の不足が深刻である。
現地のロータリークラブをはじめ、様々な支援団体が浄水機(バケツに浄水装置を取り付けるだけの簡易なもの)の配布と使用方法のレクチャーを実施しているものの、多くのエリアではいまだ水不足に悩んでいる。
フィリピン国内の水事情
フィリピンは数千の島から成る群島国家であり、島しょ部では水源がないため飲料水は雨水を貯めたものを利用したり、本島などからボートで運ばれたりすることが多い。一方、島しょ部以外の水道が普及しているエリアでは老朽化した水道管が数多く存在し、西ネグロス州のバコロド市内では古いもので90年近く経過しているものある(表参照)。水道管の適切なメンテナンスが行われていることは稀で、近年水道水の水質悪化が問題となっている。例えば、ネグロス島の水道は深井戸水を水源としていることが多いため、水道管内部にマンガンや鉄が付着した分厚い層が見られることが多く(写真下)、マンガンや鉄分を多く含んだ水になっており、飲料水として適していない。このため、水道管が普及しているエリアでも飲料水はWater Refill Station(給水所)などで購入する家庭が多いが、貧困地域ではこれらの水を購入する余裕がない家庭も多く存在する。
このように、フィリピンでは、以前から全国的に飲料水の確保が大きな課題の一つとなっており、フィリピン政府は特に水へのアクセス率が低い全国の455の町を”Waterless Municipalities”に指定し(Municipalityは町の意味)、それらの地域における状況改善のために2011年よりSalintubig(Sagana at Ligtas na Tubig Para sa Lahat)プロジェクトを開始している。本プロジェクトは、”Waterless Municipalities”における水供給システムの推進や貧困層の公衆衛生の改善などを目的とし、2011年は15億Php(フィリピンペソ)、2012年は8億Php、2013年は18億Phpの予算が計上され、445の”Waterless Municipalities”に配分されているが、それぞれのバランガイ(市や町を構成する最小単位の自治体)に対する配分額は非常に小さく、有効な政策を実施できていないのが現状である。
また、各市の水道局が新たな投資(水道管網の拡大、修繕など)を実施する際、フィリピン政府からの補助金を当てにすることは難しく、政府系金融機関やアジア開発銀行などから利息の高い融資を受けるしかなく、資金面で新たな設備投資を行うハードルが高いことが慢性的に水供給システムの普及が進まない大きな原因の一つである。
フィリピンへの水支援のあり方
今回の台風被害により、フィリピンにおけるライフライン(特に水供給の面)の脆弱性が顕在化しており、今後の災害に備え、対策が急務となっている。しかし、前述の通り、フィリピンは群島国家であるため水道の普及は難しく、既に水道が普及しているエリアでも老朽化した水道管が多く、そのすべてを修繕し、かつさらなる水道普及により水問題を改善するのは現実的ではない。また、フィリピンにおいては貧困層が多く存在するため、水支援を考える際に貧困層の救済も必要不可欠な要素となる。これらを踏まえ、フィリピンへの水支援のあり方を以下に提言したい。
1. 膨大な費用が必要な水道管網の普及・修復ではなく、身近にある水源(井戸、池、川や雨水)を浄化する装置の導入を検討。(今回の大規模台風のように、災害時にも活用できる)
2. フィリピンでは政治に影響力を持ち、地方自治体との太いパイプを持つNGOが数多く存在する。これらのNGOと協働して行政に働きかけることでフィリピン政府による資金ねん出を試みる。
3. 公益財団法人オイスカ(注1)のように、長年地域に根ざした環境保全活動を展開している日本発の団体などと協力して特に農村地帯や貧困層における衛生的な飲料水に対する意識の向上を図り、地域全体での機運を高める。
(木内 亮太)
(注1)1961年に日本で設立された国際NGO。現在アジアを中心に30の国と地域に組織を持ち、農村開発や環境保全活動に係る人材育成、啓もう活動などを行っている。(http://www.oisca.org/)