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 ベトナム・エネルギー事情―石炭を中心にした最近の動き

2012年6月14日

近年エネルギー問題はどの国においても最重要課題の一つであるが、エネルギー需要の拡大が続くベトナムもその例外ではない。特に電力供給の逼迫は、外資導入をエンジンとする同国の経済発展モデルに水をさすことになるだけでなく、度重なる停電は生活への影響も大きい。ここ数年はハノイやホーチミンといった都市部でも停電が頻発しており、日系企業の入るような工業団地でも停電が起きている。

2011年7月21日に発効したベトナム第7次国家電力開発マスタープラン(PDP7)によると、2010年段階で発電設備容量は2000万kWを超える程度であるが、2030年には1億4680万kWまで増やす計画だ。急速な需要増加に応えることが最優先されているが、資金面で追いつくかどうかも疑問視されている。

電源構成も大きく変化すると想定されている。これまで、それほど高くなかった石炭火力発電の割合を、マスタープランでは2020年に48.0%、2030年には51.6%に急拡大していく方針が示された。それに従い、これまで主流だった水力発電の割合は低下する。日本政府との間で合意された原子力発電は2030年に6.6%に達する見通しだ。再生可能エネルギーも増やしていくが、急増する電力需要に対応する切り札として石炭の活用を拡大しようとしている点は、中国の方針とは異なる。

ベトナムの電源開発見通し


出典:PDP7 (JETROベトナム電力調査2011より)

このため、石炭も急ピッチでの生産拡大を計画している。石炭マスタープランによると、石炭生産目標(精炭ベース)は2011年の4400万㌧から2030年には最大で7500万㌧に増える見込みである。ベトナムの主要な石炭生産地は北東部のQuangNinh省であるが、これまでの露天掘り中心から徐々に坑内掘りへの移行を進めていくことにしており、2030年には80%を坑内掘りにしていく計画だ。今後は、北部の紅河(レッドリバー)デルタ、Hung Yen省、Thai Binh省などでの採掘にも力を入れるとみられている。

発電事業でも活発な動きが見られる。石炭採掘の95%以上を占める国有企業のベトナム国営石炭・鉱物工業グループ(VINACOMIN)は、発電事業への投資拡大を計画している。5月23日には東芝と双日が韓国の大林産業と共同でタイビン2石炭火力発電所プロジェクト(ベトナム北部/タイビン省)を、ベトナム国営石油公団(ペトロベトナム)の子会社で同プロジェクトのEPC契約者であるペトロベトナム建設から受注したと発表した。

一方で、多数の新規発電所が運転を開始する2015年以降には国内炭の不足が予想されており、輸入依存の上昇が懸念されている。ベトナム商工省エネルギー庁副局長のNguyen Khac Tho氏は現地紙(2012年5月16日TuoiTre紙)のインタビューに答え、PDP7の計画通りに石炭火力発電の建設、稼働が進めば、2015年には500万㌧の石炭輸入が始まり、その後輸入量は着実に増えていくとの見通しを示した。輸入先としては、VINACOMINが契約を結んでいるインドネシア、オーストラリアなどがある。

石炭火力発電の拡大に関しては、環境面から懸念を示す声もある。北から南まで3000キロ以上にわたる沿岸地域を抱えるベトナムは、世界で最も地球温暖化の影響を受ける地域という指摘もある。経済の中心地がデルタ低地であること、農業生産がデルタ地域に集中していることなどから、ベトナム政府も温暖化の影響には大きな懸念を示している。電力需要の増加、石炭不足、環境問題への懸念は、これまで以上に、エネルギーのクリーン化に加えて、各種省エネ技術の導入といった対策が必要となるであろう。

日本は、石炭の安全生産に関する協力などの技術協力を2001年からODAプロジェクトとして行うなど、ベトナムの石炭業界とのつながりも深い。VINACOMINの全輸出量の8%が日本に輸出されている(2010年)という石炭貿易のパートナーでもある。ベトナムに生産・販売拠点を置く日本企業の観点、またエネルギー安全保障上のパートナーという観点、そして日本の持つ省エネ技術の潜在市場という観点からも、ベトナムにおけるエネルギー事情、石炭事情の今後の動きには注目していく必要があるだろう。

(今井 淳一 )

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