アジア 「福島原発事故がもたらす各国原発建設計画への影響、世論の趨勢」
2011年3月31日
3月11日に発生した東日本巨大地震による福島第1および第2原子力発電所事故発生を受け、各国においても原子力発電所の安全性に関する議論が起こっている。以下にこれまで確認されているアジア各国の反応をまとめた。
●タイ
タイ電力公社(EGAT)は、2010-2030年の電力開発計画で、2020年から2028年にかけて1,000MW規模の原子力発電所5基の建設を計画しており、2030年時点では電力供給量全体の約10%を原子力によって賄う計画を示している。タイ政府として原子力発電所建設を正式に決定した状況ではなく建設予定地も未だ決まっていないものの、建設候補地として過去に調査が実施された複数県では、今回の福島原発事故の発生を受け、住民によるデモが発生している。
産業界からは、電力供給量の確保は重要としながらも、「(原子力発電所建設計画は)必要性と安全性を再度検証した上での判断が必要」(タイ商工会議所ドゥシット会頭)と慎重な検討を求める声が上がっており、こうした動きを受け、ワンナラット・エネルギー大臣は原子力発電所建設計画の見直しを既に関係省庁に指示した模様だ。同大臣は同時に「原子力発電所建設計画を中止するためには、今後増え続ける電力需要に対して、原子力発電以外でこれを補填するための具体案が必要」とも言及しており、タイのエネルギー開発計画全体の議論が必要であることを示唆している。
●ベトナム
報道によると、ベトナム政府は今回の福島原発事故の発生を受け、現在進められている原子力発電所建設計画について、安全対策を徹底した上で建設計画続行の意向を明らかにしている。(ウェブサイト ベトジョー・ベトナムニュース2011年3月21日配信記事)ベトナム南部のニントアン省で計画されている原子力発電所建設第2期分については、昨年の日越首脳会談により、日本企業が受注することが決定している。
これまでに、ベトナムにおける大規模な住民デモの発生は報道されていない。
●インド
インド原子力発電公社(NPCIL)のS・K・ジャイン理事長は17日、今回の福島原発事故の発生を受け、国内すべての原子力発電所について再調査を実施すると発表した。同理事長は加えて「過去の大地震および津波の際にも国内の原子炉は安全停止したが、これに満足することなく、再調査を実施する」と述べている。
2004年12月に発生したスマトラ島沖大地震およびインド洋大津波では、マドラス原子力発電所2号機(カルパッカム2号機)のポンプ建屋が津波の影響により浸水したが、安全停止し、放射性物質の放出はなかった。
●インドネシア
インドネシアでは、2016年に第1号の原子力発電所を建設する政府の計画が、昨年、住民の反対により頓挫した経緯がある。これに加えて今回の福島原発事故が発生したことを受け、インドネシア政府および関係機関からも慎重な意見が出されている。
グスティ環境大臣は、18日のジャカルタポスト紙のインタビューにおいて、人的リソースの不足及び住民の合意が未形成であることを理由に、インドネシアでの原子力発電所建設は時期尚早であるとの見解を示している。
建設候補地とされる地方からも、慎重な検討を求める意見が出ている。地方代表者議会(DPD)グスティ副議長は、「政府が原子力発電所建設計画を推し進めるのであれば、建設候補地住民の意見をよく聴取した上で実施すべき」との声明を発表した。
現在、インドネシア国内には3基(バンドン、ジョグジャカルタ、スルポン)の研究炉がある。福島原発事故が発生する以前の昨年時点では、各州に原発を設置するべきといったような意見も政府筋から聞かれていたが、今回の福島原発事故により、建設推進はより厳しい状況となるだろう。
(石毛 寛人)