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 タイ 「東部マプタプット工業地域 環境汚染・事業停止問題 解決への道筋」2

2010年9月1日

<マプタプット工業地域 事業停止問題 経緯>

2009年3月、多くの日系企業が操業するタイ国有数の工業地帯マプタプット地域において実施予定だった石油化学、鉄鋼製造等の計76事業に対し、行政裁判所によって事業開始の凍結命令が出された。
2007年に同地区における公害汚染問題が近隣住民らによって提起されたことに端を発し、これに2006年の政変に伴う制度的混乱が加わったことでますます混乱の度を深めたこの問題は、差し止め後1年以上たった現在も、36事業について再開の目処が立たないままとなっていた。
【詳細な経緯は東部マプタプット工業地域 環境汚染・事業停止問題(1)をご参照ください。】

特に、最大の焦点の一つとされていた健康アセスメント(HIA)および住民・利害関係者からの意見聴取実施が新たに義務付けられる業種のリスト化作業は、6月時点で一旦の結論が出たかに見えたものの、最終決定には至らず、現在まで再検討が続けられてきた。
8月23日、この対象業種リストが最終的に国家環境委員会によって承認され、同31日に閣議決定された。今後、天然資源・環境省規則として布告される見通しだ。

<健康アセスメント実施が義務付けられる業種>

8月24日付現地紙(Post Today紙他)報道によると、健康アセスメント(HIA)および住民・利害関係者からの意見聴取実施が必要とされる業種は以下のとおり。
(HIA実施が義務付けられる「環境に重大な影響を及ぼす」業種)
1 300ライ以上の海洋・海岸の埋め立て
2 すべての種類、規模の鉱業
3 工業団地の造成・拡張
4 石油化学製造(上・中流工程)
5 鉱石及び金属の溶解、焼結処理(生産量5,000t/日 以上または1,000t以上増設の場合)
6 病院、動物病院、研究施設等における放射性物質の製造・廃棄・加工
7 有害物質の廃棄場または焼却場
8 空港 (滑走路3,000m以上)
9 港湾 (地域住民が利用する小規模なものを除く)
10 ダムまたは貯水池(容積1億立米かつ面積15平方キロメートル以上)
11 発電所 (3,000MW以上の追加出力を有する天然ガスまたはコンバインドサイクル発電所を除く)

(HIA実施対象外だが、EIA実施は義務付けられる業種)
1 感染性廃棄物の焼却
2 河川主流域または国際河川への放水・合流(災害時または国家の安全に影響がある場合の一時的実施を除く)
3 水門オペレーション

(HIA/EIAの実施対象外となる業種)
1 灌漑
2 土中塩分の吸収

(専門家による委員会で検討される業種)
1 世界遺産、歴史公園、遺跡、歴史学上法定区域、自然保護林等または同地に影響を及ぼす地に立地しているEIA実施が義務付けられているプロジェクト
2 環境保護地域または観光保護地域における防波堤の建設または修繕

<今後の見通し>

現在もなお差し止めを受けている36事業のうち、今回HIA実施が義務付けられる対象となる業種以外の事業については、天然資源・環境省による布告が発出された後、即刻、事業開始が許可される可能性が高い。それ以外の対象業種については、現在、既に各社事前にHIA申請準備が進められていることから、早ければ年内に事業開始となる可能性もある。今回のマプタプットにおける事業差し止め問題は、解決に向け大きな一歩を踏み出したと言えるだろう。今後の法的安定性の観点からも、従うべき指針が明確に示されたことは大きな前進だ。

ただし、今回の政府による決定に対しては、既に、実施義務付け対象業種の範囲が限定され過ぎているなどとして、環境保護団体から反発の声も上がっている。ラヨーン県は2009年5月に、国家環境委員会によって環境汚染監視区域に指定されており、タイ全土を対象とした規制よりも厳格な規制を制定する権限が県知事に与えられていることもあり、今回の事業差し止め自体が解除されたとしても、同地域における環境汚染対策に対する議論は、中央政府と地方政府、企業、地域住民および環境保護団体ら複数のステークホルダーを巻き込む形で継続されていくものと予想される。

(石毛 寛人)

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