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 「棄風」、「棄光」、「棄水」につづき「棄核」の兆し
   ~原発のベースロード運転に高い期待感~

2016年4月13日

「棄風」、「棄光」、「棄水」とは、送電網や系統連系の問題から風力発電所や太陽光発電所、水力発電所の稼働が制限されてしまうことだが、原子力発電所の稼働制限である「棄核」が浮上してきた。こうした背景に何があるのか。

中国では、経済成長の伸び率鈍化にともない電力消費量の伸び率も低下してきている。国家能源局によると、2015年の電力消費量の伸び率は対前年比で0.5%だった。2014年と2013年の対前年伸び率はそれぞれ3.8%、7.5%だったことから、2015年の落ち込みは際立っている。とくに、第二次産業の電力消費量は前年に比べ1.4%も減少した。一方で、2015年の発電設備の純増は過去最高となる1億4000万kWを記録した。同年末の発電設備容量は15億1000万kWに達し、対前年比では10.5%増となった。

このため、供給能力が需要を大幅に上回り、発電所の平均利用時間が前年を大幅に下回ることになった。2015年のすべての発電所の平均利用時間は3969時間となり、前年より349時間減少した。平均利用時間は3年連続して減少したことになる。2015年の平均時間稼働率は45.3%だ。

電源別に見ると、平均利用時間が最も多かったのは原子力発電で7350時間(平均時間稼働率83.9%)、以下、火力発電4329時間(同49.4%)、水力発電3621時間(同41.3%)、風力発電1728時間(同19.7%)となった。前年との比較では、平均時間稼働率が一番高かった原子力発電でも、平均利用時間は前年に比べると437時間減少した。また、火力発電は410時間、風力発電は172時間、それぞれ減少した。

こうした状況にもかかわらず、発電所の増設にストップがかかっておらず、今年1月から2月までの2ヵ月間で2228万kWの発電所が新たに運転を開始した。2016年も1億kW程度の発電所が稼働するとみられており、設備過剰に拍車がかかることは必至だ。そうした背景には、発電所建設のリードタイムが長いため、急に計画を変更できないという事情がある。

中国は、深刻な大気汚染への対応もあり、石炭依存を減らす方針を打ち出している。4月1日に公表した「2016年エネルギー工作指導意見」では、2016年のエネルギー消費目標を標準炭換算で43.4億トンとしたうえで、石炭の占める割合を63%以下に抑えるとの目標を掲げている。しかし、石炭からの脱却はそう簡単ではない。

中国の総発電電力量に占める石炭火力の割合は約70%。供給過剰の影響により石炭価格が低下し石炭火力発電企業の収益は悪くないとは言え、電力価格の低下と稼働率の低下によって経営が厳しくなることも予想される。石炭生産量と石炭火力発電設備の過剰にどう対応していくかは中国に突き付けられた大きな課題と言える。

こうしたなかで、原子力発電をベースロード電源にしようという機運が高まってきている。3月の「両会」(全人代、政治協商会議)期間中、原子力関係者が連名で「原子力発電のベースロード運転を確保し、エネルギー供給側での構造改革を推進する」とした提案を行った。提案者は、いずれも全国政協委員に名前を連ねる中国広核集団有限公司の賀禹董事長、中国核工業建設集団公司の王寿君董事長、国家電力投資集団公司の王炳華董事長、中国核動力研究設計院の羅琦院長の4名。

フランスのように原子力発電の割合が高い国を除いて、原子力発電は基本的にベースロード電源として使われている。ベースロード電源とは、時間帯によって大きく変動する電力需要の中で、ベース部分を分担する電源のことを言う。中国では、2015年の実績で、総発電電力量に占める原子力の割合はわずか3%に過ぎない。本来であれば、ベースロード電源として使われてもおかしくないが、現実は違う。

2015年の平均稼働時間数は前述したように、前年より437時間も減少した。火力発電よりも減少幅は大きかった。原子力発電の平均稼働時間は7350時間だが、省別に見ると、平均を大幅に下回っている省がある。福建省は6885時間、遼寧省にいたっては5815時間だ。このうち遼寧省では、前年にくらべて1064時間も減った。資本コストが高く運転維持費が低い原子力発電事業者にとって、稼働率の低下は死活問題だ。

中国を代表する原子力事業者の首脳は、100万kW級の原子力発電所の年間発電量は、風力発電所では400万kW、太陽エネルギーを使った発電所では600万kWの規模に相当するため、原子力発電の安定性は突出していると主張している。また、100万kW級の原子力発電所によって、同等の石炭火力を使う場合より二酸化炭素の排出量を585万トン抑制することができ、政府が推進する気候変動対策にとっても不可欠との見解を示した。

広核集団の賀禹董事長によると、原子力発電所の平均稼働時間が1000時間減少する毎に1基の100万kW級原発の発電量は10億kWh減少する。中国政府は2020年時点で5800万kWという原子力発電目標を掲げているが、これで計算すると580億kWhの発電量の損失につながる。これは8基の原発が1年間運転を停止した量と同じだ。2030年には1億5000万kWまで原子力発電規模を拡大することが想定されているが、この場合には発電量の損失は1500億kWhにも達し、20基の原発が1年間完全に運転を停止したのと同じ計算になる。

中国政府は、電力を含めたエネルギーのグリーン化をめざすという方針を打ち出しているが、「棄風」、「棄光」、「棄水」、「棄核」の出現は、クリーン電源に位置づけられる再生可能エネルギーや原子力発電設備が有効に利用されていない実態を鮮明にしただけでなく、火力発電との調整の難しさを浮き彫りにした。供給能力の大幅な過剰という状況の中で、供給側の改革は一筋縄ではいきそうもない。

(窪田 秀雄)

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