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 中国、原発輸出専門会社を設立し世界市場席巻へ

2015年11月13日

59年前、世界初の商業用原子力発電所コールダーホールが運転を開始した英国に中国製の原子力発電所が建設される。こんな時代が来るとは、当時だれも予想しなかっただろう。中国の『新華網』は、原子力の海外進出の歴史的な出来事と報じた。英国は、習近平政権が進める「一帯一路」(新シルクロード戦略)の終点と位置付けられており、そこに中国製原発を建設するということは中国にとって大きな意義を持つ。キャメロン首相も、英中関係が「黄金時代」に入ったとの認識を示しており、原発プロジェクトはまさにその象徴だ。

英エネルギー・気候変動省と中国国家能源局が署名した「民事用原子力分野での協力声明」では、ヒンクリーポイントC、サイズウェルC、ブラッドウェルBの各原発プロジェクトでのフランス電力公社(EDF)との協力が明記されている。また、英・中両国だけでなく、第三国での市場開拓についての協力も確認された。このほか、共同での人材育成や原子力研究共同センターの設立も盛り込まれた。詳細については、本号の記事を参照されたい。

原発建設プロジェクトについては、習主席、キャメロン首相立会いの下に契約が結ばれたが、締結したのは中国側が中国広核集団有限公司(広核集団)、もう一方はフランス電力公社(EDF)。つまり、原発プロジェクトについては、主役は中国とフランスの企業であり、英国は脇役に過ぎない。もちろん、英国政府として原発プロジェクトをバックアップすることは言うまでもない。中国側は、英国、フランス3カ国の絆を深めるプロジェクトと高く評価している。

3件のプロジェクトのうち、最も関心を集めたのはブラッドウェルBだ。広核集団と中国核工業集団公司(中核集団)が開発した第3世代炉の設計を統合した「華龍一号」(輸出名は「HPR1000」)が採用される。参照プラントは、広核集団の「華龍一号」初号機となる防城港3・4号機だ。「華龍一号」の設計のベースとなっているのはフランスの原子炉だが、中国製の原発ということで英国内では懸念が湧き上がった。セキュリティ関係者からは、エネルギーという国家安全保障の根幹を中国に依存しても良いのかという批判が出された。中国の原子力事業者が軍事部門を抱えることも問題となった。

今回の英国のプロジェクトは広核集団が担うことになったが、「華龍一号」(「HPR1000」)の世界市場開拓は今後、中核集団と広核集団の折半出資の専門輸出会社「華龍公司」が担当する。新会社は、早ければ2016年にも上海に設立されるという。これによって、中国の原子力発電輸出は、「華龍公司」と国家電力投資集団公司の2頭立てで行われることになる。

広核集団は、原子力発電所を運営する欧州の電力会社15社が各国の規制要件や運転経験をもとに定めた欧州電力要求(EUR)に「華龍一号」が適合しているかどうかを審査する認証申請が受理されたことを明らかにした。2020年の認証取得をめざすというが、英国をステップとして、「華龍公司」が次に照準を定めるのは間違いなく欧州市場だ。もちろん、これだけではない。広核集団、中核集団とも、南米や東南アジア、中東、アフリカといった地域の国との間で具体的な商談を進めている。相手国は優に20を超えている。国家能源局は、2020年以前に国外で中国製原発が6~8基着工すると見込んでいるが、このままいけば2020年以降も中国の勢いはとまりそうもない。

中国のメディアの中には、日本を出し抜いたとの論調が見られる。国内に目を転じれば、「安全確保をないがしろにして原子力発電開発を進めている」、「生産や技術、プロセス、品質、人的資源等で問題があり製品の品質に影響している」といった指摘もあり、まったく問題がないということではなさそうだ。しかし、中国はありとあらゆる事態を想定して戦略を練っており、そのしたたかさには舌を巻く。

(窪田 秀雄)

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