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 中国、3大原子力事業者体制で世界の覇権めざす

2015年8月12日

中国核工業集団公司(中核集団)、中国広核集団有限公司(広核集団)に伍する原子力事業者が誕生した。第3世代炉の国産化を担う国家核電技術公司(国家核電)と5大電力の1社に数えられる中国電力投資集団公司(中電投)が合併し「中国国家電力投資集団公司」(国家電投)が7月15日、正式に発足した。

これまでも、国家核電技術公司は「3大原子力事業者」に数えられていたが、中核集団や広核集団に比べると劣勢は否めなかった。原子力発電所を運転する実施部隊がなかったためだ。しかし、原子力発電所の運転経験を持つ中電投との合併によって、文字通り「3大原子力事業者」の一角を占めることになった。なお、国家核電は国家電投の子会社として存続することになった。

当初、世界で続々と原子力発電所を受注するロシアの国営原子力企業ロスアトムに対抗するため、中国としても原子力事業者を1社に統合しなければならないとの指摘もあったが、中国政府は3社体制の方がかえって有利と判断したようだ。

それにしても、中国の原子力界の勢いはとどまるところを知らない。遼寧省の紅沿河原子力発電所6号機(PWR、111万9000kW)が7月24日に着工し、中国国内で建設中の原子力発電設備は26基・2877万kWに達した。今年に入り7月までに3基が商業運転を開始、3基が着工した。2015年は合計で6~8基が着工、8基が商業運転を開始すると見込まれている。現在、運転中と建設中を合計した設備容量は約5200万kWに達することから、中国政府が掲げる2020年時点での運転設備容量5800万kWという目標の達成の可能性は高い。

国内の計画以上に注目されるのが海外展開だ。中国政府は「一帯一路」(陸と海のシルクロード)戦略を進める中で原子力輸出を柱と位置付け、外交カードとしても利用している。習近平国家主席と李克強首相の外国訪問の際、中国の原子力関係者が同行しないケースはない。

そうしたなかで、世界の原子力界での中国の存在感を示した動きがあった。イラン原子力庁は、中国がイランの原発2基を建設する見込みであることを明らかにした。ロシアも2基を建設することが固まっている。もう1つ、960万kW規模の原発新設計画を持つ南アフリカでも、ロシアの受注が確実とみられているが、中国企業の巻き返しが始まっている。当初、ロシアと米ウェスチングハウス社の受注が有力とみられていたが、中国側も官民一体となった攻勢に出ている。

南アの新規プロジェクトについては、国家核電が受注活動を展開していた。こうしたなかで、7月16日付『人民網』は、前日に発足したばかりの国家電投(国家核電)に対して中国広核集団が協力して南アでの受注に乗り出したと報じた。3大原子力事業者の一角を占める広核集団が協力するということは、それだけ南アでの受注を重要視している表れであり、当然裏では中国政府が“調整”したのだろう。

国家核電は7月21日、南アのヨハネスブルクで「中国・南アエネルギー産業協力検討会」を開催した。国家核電が世界展開する第3世代炉「CAP1400」(PWR、140万kW)をPRするのが目的で、同社のほか、親会社の国家電力投資集団傘下の上海電力股份有限公司、国際鉱業公司、上海電気集団、三一重工、国家開発銀行、中国銀行などが参加した。「CAP1400」のオリジナル技術はウェスチングハウスの「AP1000」であり、また国家核電とウェスチングハウスの国際市場での協力関係を考えると、最終的にはウェスチングハウスが中国側に協力する可能性もある。

南アに対しては、中国核工業建設集団公司が高温ガス炉(HTGR)の売り込みをはかっている。同社は原子力発電専門のゼネコンで、3大原子力事業者には入っていないが、PWR(加圧水型炉)とは違った用途が見込めるHTGRを戦略輸出商品として、南アだけでなくサウジアラビアやUAEのドバイに積極的に売り込んでいる。

中国は東南アジア市場にも積極的に打って出ている。7月23日付『中国経済新聞網』は、「中国、ロシア、日本がASEANの原子力発電市場争奪へ」と見出しをつけたが、日本については買いかぶりすぎだろう。国内で新規のプロジェクトもなく、新型炉の開発も停滞している日本が、国が前面に出るロシアや中国と対等に渡り合うのは至難の業だ。それどころか、原子力産業基盤の存続さえ危ぶまれている。

(窪田 秀雄)

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