世界の工場から「製造強国」へ―中国ブランドは世界市場に浸透するか
2015年5月15日
2015年3月の中国全人代の政府経済報告によると、2014年の実質GDP成長率は7.4%となり、政府が掲げた「7.5%前後」の目標はほぼクリアしたものの、2013年の7.7%から0.3ポイント低下し経済成長の減速傾向が鮮明となった。李克強首相は2015年のGDP成長率の目標について2014年の「7.5%前後」から「7%前後」へ引き下げる方針を正式に確認するとともに、当面の間は同程度の成長率が続く「新常態(ニューノーマル)」において安定成長を保っていく考えを示した。他方、IMF(国際通貨基金)は購買力平価ベースのGDP比較では2014年に中国が米国を抜いたとの報告をしており、これまで中国経済を牽引してきた安い人件費と製造コストによる「世界の工場」としての製造業発展モデルの戦略転換が必要な時期にきたことは明白である。
李克強首相は経済の安定成長に向けた産業振興策のひとつとして、製造大国から「製造強国」への転換を進める基本方針を示し、そのための新たな10カ年計画として「中国製造2025」の制定を公表した。2025年までに労働集約型の単純なものづくり中心の製造業から脱却して、先進国並みに高度な製造業を創出することを目指すもので、先端分野への優遇策を手厚くするほか、企業の研究開発を奨励し、技術イノベーションの活発化により新興産業の育成を促進させることを狙う。重点的に発展させる領域として「新世代情報技術」、「ハイレベル数値制御工作機械・ロボット」、「航空・宇宙設備」、「海洋エンジニアリング設備・ハイテク船舶」、「先進軌道交通設備」、「省エネ・新エネルギー自動車」、「電力設備」、「新素材」、「バイオ医薬・高性能医療機器」、「農業機械設備」の10産業を列挙し、李首相は「グローバル競争を勝ち抜く主導的な産業に育成する」と強調した。
中国企業ブランドの現状について米経済誌「フォーチュン」の売上順による企業ランキング「グローバル500」(2014年版)をみてみると、2013年の95社から2014年は100社へ5社増加した。ちなみに、日本企業は2013年の62社から2014年は57社へ5社減少している。「グローバル500」の中国企業100社のうち、電力・石油・石炭等のエネルギー・資源企業が28社、金融が16社、建設・インフラが15社で6割を占め、製造業企業は29社で3割足らずである。製造業29社の業種内訳をみると、鉄鋼・非鉄金属が11社、自動車6社、機械・設備(兵器を含む)4社、電子機器3社、化学、医薬、造船、紡績、食品がそれぞれ1社であり、このほとんどがいわゆる国有企業である。
「グローバル500」は主に売上高を指標にしており、中国企業が多くランクインしているのはマクロレベルで中国経済の量的拡大が続く環境下において、国内市場で優位性を有する国有企業が売上を伸ばしてきたためであり、いわば自国内の市場に大きく依存して規模を拡大してきた結果と言える。この状況に対して国営メディアの新華網も、ランクインする中国企業は金融機関やエネルギー・資源企業等が多く、これは中国の国内市場で多くの規制に守られ、容易に利益を生むことができる状況を反映した結果であり、高い技術力を売りにする世界的な製造業企業が少ないことが課題であると指摘している。
逆に言うと国内の経済成長が低下すれば規模拡大は停滞してしまう可能性が高く、今後、グローバル市場での競争に打ち勝って行けるかどうかが中国製造業の真価が問われるところであろう。中国の製造業では最高の85位にランクされた上海汽車集団はASEAN市場の開拓に力を入れており、2015年2月に傘下の合弁会社である上海GM五菱と共同でインドネシアに乗用車工場を建設すると発表した。同集団ではタイに続いてASEANで2番目の拠点になる。中国の「製造強国」の実現は、華為技術のようにグローバル競争を勝ち抜いて成長する企業がどれだけ多く輩出されるかにかかっている。国有企業が主要産業を牛耳る中国の産業構造で真のイノベーションを起こしてグローバル競争で勝っていけるのか。今後の中国製造業企業の動きから目を離せない。
(高木 正勝)