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 海洋進出強める中国が浮動式原子力プラント開発へ

2014年9月10日

浮動式(floating)原子力プラントへの関心が世界的に高まってきている。この分野でトップを走るロシアでは早ければ2016年にも東シベリア海のチュクチ半島に浮動式原子力プラントが配備される見通しとなっている。ロシアは同プラントを用い、エネルギーの供給が難しい遠隔地に電力や熱、水を供給する計画だ。そうしたニーズを持つ国に対して販売するだけでなくレンタルすることも視野に入れている。

浮動式原子力プラントに対する関心が世界でも一番高い国は中国だろう。中国は南沙諸島に永久的な人工島を建設する構想を持っているが、人工島を維持するためにはエネルギーや水の供給を確保しなければならない。現在、遠隔地の島嶼部では再生可能エネルギーによってエネルギーや水の供給が行われているが、浮動式原子力プラントを利用すれば機動性、安定性は一段と強まる。

既報のとおり、国家能源局は6月、「海洋原子動力プラットフォームの全体基幹技術及び設備の研究開発」を請け負う組織・企業を公募した。原子炉を搭載した海洋プラットフォームの全体技術研究を進め、各種海域における原子動力プラットフォームの全体性能や構造、原子力施設の安全等の基幹技術のブレークスルーを達成し、海洋における原子動力プラットフォームの実証プロジェクトにつなぐのがねらいだ。約19億円を上限として国が資金を負担する。

このほか、中国船舶重工集団が2013年2月に明らかにしたところによると、科学技術部の「863計画」(国家ハイテク研究発展計画)のもとで実施される「原子動力船舶基幹技術・安全性研究」と国家科学技術支援計画のもとで実施される「小型原子炉発電技術及びその実証応用」プロジェクトが正式に立ち上げられている。なお、同集団傘下で原子力潜水艦の設計を行っている七一九研究所は、「小型原子炉発電技術及びその実証応用」を政府から受託。4つの課題のうちの1つ「海洋小型原子力発電所の運転保障技術研究」については中国広核集団傘下の中科華核電技術研究院と中広核湖北分公司が担当する。

浮動式原子力プラントに搭載する小型原子炉の開発を担当するのは中国核工業集団公司だ。同公司は6月、ワシントンで5月に開催された小型炉の国際フォーラムで同社の「ACP100」(PWR、10万kW)が国際舞台でデビューを飾ったことを明らかにした。「ACP100」は、原子力砕氷船への搭載も計画されている。

中国核工業集団公司の「ACP100」を用いた海上浮動式原子力プラント

出典:中国核工業集団公司ホームページ
http://www.cnnc.com.cn/publish/portal0/tab664/info83069.htm

ロシアとの共同開発も視野に

中国は、独自開発と並行して、浮動式原子力プラントで一日の長があるロシアとの共同開発も視野に入れている。今年5月下旬、上海でロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席による首脳会談が行われた際、「全面的な原子力発電協力了解覚書」が締結され、両国が浮動式原子力プラントを共同で建造することに合意した。共同建造の件については中国側から一切発表がなかったが、ロシア側の報道によって明らかにされた。報道では、浮動式原子力プラントの共同建造は、原子力空母を含めた中国の軍艦用動力装置の建造にも役立つとしたロシアの専門家の意見も紹介された。

ロシアの国営原子力企業ROSATOMも6月11日、中露両国が中小出力の浮動式原子力プラントの建造で協力することに合意したことを明らかにした。ROSATOMによると、傘下のRusatom Overseasと中国核工業集団公司傘下の中核新能源有限公司が7月29日、浮動式原子力プラントの開発プロジェクトにおける協力について了解趣意書を締結した。Rusatom側は、浮動式原子力プラントの利用範囲は広いとしたうえで、自走式と曳航式の2種類の設計があるとの考えを示した。まず、中露の合同作業部会を立ち上げる。中核新能源有限公司一行は7月24日から29日にかけて、ロシアの浮動式原子力プラント訓練センターとバルト造船所を訪問し、浮動式原子力プラント建造プロジェクトチームの関係者と協議した。ROSATOMと中国は、2019年から6基の浮動式原子力プラントの建造に着手するとの報道もある。

8月20日付『ノーボスチ通信』は、ロシアの核燃料メーカーTVEL傘下のMSZ社が中国の浮動式原子力プラントに核燃料を供給する計画もあると報じた。中国核工業集団公司の孫勤董事長は8月30日、モスクワで開催された中露エネルギー協力委員会の第11回会議に参加した。会議では、原子力分野の協力が重要テーマとなり、加圧水型原子力発電所(PWR)や高速炉等の協力について協議が行われた。浮動式原子力プラントについて協議が行われたことは言うまでもない。

上海核工程研究設計院の鄭明光院長は、海上浮動式の原子力プラントには比較的大きな市場が見込めるとしたうえで、中国では「非常に多くの島々で開発ニーズがある」と指摘。中国が陸地経済から海洋経済に転換をはかるにあたって浮動式原子力プラントがきわめて重要な役割を果たすとの認識を示した。また、島嶼開発での最大の課題は電力や淡水の供給といった生活条件の整備にあるため、浮動式原子力プラントによって条件が整備されれば中国がめざす海洋経済は大きく発展すると強調した。

中国海洋石油総公司向けに設計した海上浮動式原子力プラント(水面浮動式)

 

中国海洋石油総公司向けに設計した海上浮動式原子力プラント(水中潜水式)

出典:「小型反応堆在船舶与海洋工程中的応用」(中国船舶重工集団公司第七一九研究所、2013年10月)

(窪田 秀雄)

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