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 一刻の猶予も許されない土壌汚染修復対策

2014年8月12日

2014年4月17日、国家環境保護部と国家国土資源部は、香港・マカオ特別行政区などを除いた中国全土における初の土壌汚染状況調査(2005年4月~2013年12月実施)結果を公表した。

同調査では全国で統一した方法、基準を採用し、総面積約630万平方キロメートルに及ぶ土壌環境の全体状況を把握した。調査結果の概要は下記のとおりである。

汚染基準を超えた箇所は全国の16.1%にのぼり、そのうち軽微11.2%、軽度2.3%、中度1.5%、重度1.1%であった。土地の利用目的別に分類すると、耕地19.4%、林地10.0%、草地10.4%が汚染基準を超えていることが判明した。汚染の種類別では、無機物型汚染が主で、汚染全体の82.8%を占めており、主な汚染物質はカドミウム、ニッケル、水銀、ヒ素などの重金属であった。次が有機物型で、混合型は少なかった。地域別に見ると、長江デルタ、珠江デルタ、東北工業地帯などの一部区域における土壌汚染が突出しており、耕地土壌環境の質については南部が北部より深刻で、土壌表層のカドミウムなどの重金属含有量が多い傾向にあった。

対策として、1)農産物の安全と健全な生活環境の保護を起点とした土壌汚染防止行動計画を関係省庁間の連携のもとに策定、2)土壌環境保護関連法律の整備の促進、3)詳細な土壌汚染調査の追加実施、4)土壌汚染修復モデル事業の実施と関連修復技術体系の構築、5)土壌環境監督管理の強化、が挙げられている。

この調査結果の公表により、中国全土の土壌汚染問題の深刻さがようやく表面化することとなった。実際に、近年コメなどの食糧から基準を超える重金属が検出された問題が度々報道された。また、2013年に発表された九三学社中央委員会の資料によると、重金属に汚染された耕地面積は全国の耕地面積の16%以上を占めているとされる。一方、国家国土資源部の王世元副部長は2013年12月、第二回全国土地調査結果から、0.5億ムーの耕地が中度もしくは重度汚染され、農業に適していないことを明らかにした。
上記の状況に鑑み、土壌汚染修復対策の策定と実施は一刻の猶予もならない状態にある。

幸い、土壌汚染防止と土壌修復問題は中国中央政府から重要視されつつあり、法整備から汚染防止・修復技術まで様々な対策が打ち出されている。主な動きは下記のとおりである。

2014年1月に開催された全国環境保護工作会議において、周生賢国家環境保護部長(大臣)は、土壌汚染防止と修復対策の制定及び実施が水汚染防止対策、大気汚染防止対策と並び、2014年の環境保護工作の「三大戦役」のひとつであると強調した。

周生賢氏によると、2014年には「土壌環境保護と汚染防止行動計画」が制定・実施される。同行動計画の中心任務は、1)重度汚染された耕地の休閑・作物変更システムの構築、調整、2)汚染場所における土壌修復テスト事業の展開、3)6つの土壌汚染防止対策モデル地区の樹立などとしている。同時に全国土壌汚染状況詳細調査と第一期の土壌環境保護プロジェクトを始動させ、積極的に土壌汚染防止と修復事業を推進する。

国家環境保護部は2014年2月、「場地環境調査技術導則」、「場地環境モニタリング技術導則」、「汚染場地リスク評価技術導則」、「汚染場地土壌修復技術導則」及び「汚染場地術語」など汚染土地関連規範・基準を公表した。これらの規範・基準には、中国の国情に適合する土地環境管理技術の原則、モデル及びロードマップを制定した上で、土壌と地下水環境調査、場地環境モニタリング、健康リスク評価、汚染土地の土壌修復技術方案の編制にあたって遵守すべき基本原則、プロセス及び技術要求を規定した。

国家環境保護部は2014年3月18日、常務会議を開き、「土壌汚染防止行動計画」案を審議、認可し、同計画案を国務院の審議に提出して、今年中に公表・実施する予定である。

2014年3月27日、国家環境保護部科技基準司は土壌汚染修復技術座談会を開き、中国環境保護産業協会に「土壌汚染防止・修復技術目録」の編制業務を委託した。同目録には、国内外の優れた土壌汚染防止・修復技術及び土壌修復事例を収録する予定。

2014年4月24日には、中国第12回全国人民代表大会常務委員会第8回会議にて24年前に施行された「中国人民共和国環境保護法」の第一回改訂版を審議、認可した。新しい環境保護法は2015年1月1日から施行される。既存の環境保護法と比べ、新法には政府の環境保護に対する監督管理責任を明確に規定し、初めて「生態赤線」という概念が記載された。また、企業の汚染防止責任を強化し、環境違法行為への罰則を強化した。

さらに、土壌修復対策は中国各地方政府からも重要視されつつある。土壌修復のニーズは主に都市部の汚染された土地の開発や汚染農地の修復など二つの分野に集中している。前者では、人類史上未曾有の都市化の進行により、都市部に立地する汚染された工場跡地における商業・住宅地として再開発ニーズが近年増えつつあり、北京、上海、南京、武漢、広州などの大都市においては、各地方政府主導で既に用地土壌修復事業が展開されている。政府関連部門も土壌修復コストを土地開発コストに計上する可能性などを検討し始めた。後者については、食品安全と農耕地の確保を前提とした農作物生産量の確保に直接かかわる問題であり、2012年には国家財政部と国家農業部は共同で、「農産品産地の土壌重金属汚染防止に関する実施方案」を制定、公表し、財政部から8.27億元が拠出され、農業部主導で5年間かけて全国の農産品産地の重金属汚染状況を調査している。一部の地方政府も耕地保護制度や耕地土壌モニタリング制度の制定に着手している。しかし、土壌修復事業に必要な巨大な資金の調達は大きなネックとなっており、耕地土壌修復事業は個別のパイロット事業を除くと殆ど実施されていないのが現状である。このため、国家財政の関連補助金政策の早期の制定と実施が待望されている。なお、2014年4月には国家農業部は重金属汚染耕地の総合的修復プロジェクトを始動し、湖南省の長沙-株州-湘潭地区にてパイロット事業を開始した。

中国の土壌修復ビジネス市場は形成されつつあり、2016年より始まる第13次5ヵ年計画期間中には、成長期に入り、急速に発展していく見込みである。専門家の予測によると2020年までに市場規模は、6900億元(約10兆円)になるとみられ、今後の巨大な有望市場として大いに期待できる。

日本は欧米に比べ、後発ながらも一部優れた土壌汚染浄化・修復技術・ノウハウが蓄積されてきている。日本の関連企業が中国の土壌修復ビジネスに参入可能性は大いにある。

(胡 俊杰)

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