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 中国で進む都市化―中国市場の構造的変化の潮流

2014年6月11日

中国で未曾有の都市化が進んでいる。中国国家統計局のデータによると都市化率は2012年までに52.6%に達し、中国社会科学院は2018年までに60%を突破するとの予測を公表している。WTO加盟を果たした翌年の2002年の都市化率は39.1%で、その後10年で年平均1%強のペースで上昇を続けてきたことになる。

国によって統計データのとり方が異なるため、国際的な指標としての「都市化」率の固定的な定義はないが、都市部に人口が集中することにより経済活動が活発化しGDPを押し上げる効果があり、国全体の経済成長との相関関係が強いものと考えられている。日本の都市化率は2005年の「平成の大合併」で86%に達しており世界有数である。しかしながら、中国の都市化が未曾有と考えられるのは都市の規模である。2025までに100万人以上の都市が221カ所形成され、世界の人口数上位100都市の25%が中国に集中するとの米国研究機関の予測もある。

2014年3月、国務院の承認を経て「全国促進新型都市化健康発展規画(2014~2020)」が公表された。中国政府は都市部と農村部の所得格差問題の改善のため、農村地域の住民が遠く離れた大都市に出稼ぎに行かずとも、地元で豊かな生活をすることができる環境を整備するため、大都市周辺に2線級、3線級都市といわれる衛星都市を発展させる政策をとっている。これにより農村部からの流入人口を大都市周辺の中小都市で吸収する政策であり、都市と農村戸籍の統合も一部地区で試験的に実施されるなど、農村人口の市民化を政策的に推進しようとしている。

同規画は、2020 年までに総額40 兆元(約 640兆円)を投資し、20程度の都市群、180余の地級市以上の都市(日本の県に近い行政単位)および 1 万余りの農村都市(「城鎮」)を建設する方針を示した。現在の中国の行政区画上、地級市は252カ所であるから、2020年までに7割増となる計画であり膨大な都市インフラへの投資が見込まれる。同規画は、これにより中西部の都市化の恩恵を受けていない地域や大都市周辺の3線級都市の住民に対する公共サービスへのアクセスの改善や雇用機会の増加などの面でメリットをもたらすことを目標としている。

中国の都市化の急速な進展で懸念されることは、道路や住宅などのインフラ建設にともなう地方政府の財政負担増による債務問題、都市と農村に分かれている戸籍制度の改革、現在、北京や上海といった大都市で深刻となっているPM2.5等の環境問題の全国への拡散などであろう。同規画も常住人口での都市化率とともに、戸籍人口での都市化の指標のほか公共サービス、インフラ施設、資源・環境に関する発展指標も合わせて数値目標として公表している。

2020年までの「所得倍増」目標を掲げる中国は、国内の雇用を吸収していくために7.2%の経済成長が最低ラインとされる。2012年の地域GDP成長率で見ると、これまで経済成長を牽引してきた上海市、北京市、広東省等の成長率が鈍化する反面、貴州省、重慶市、雲南省、陝西省などの中西部の地域GDPが国全体の成長を押し上げる構造となっており、現在の中国は先進国と開発途上国が混在したような状況といえるだろう。

今後10年で新たな大都市が次々と出現する中国は、日本企業にとって無視できないビジネス市場であり、あらゆる都市環境問題への対策技術等のニーズも中国全土へ広がりを見せていくに違いない。世界でも類を見ない規模で進む中国の都市化は、日本企業にとって中国ビジネス戦略の再検討を迫る大きな潮流になっていくものと考えられる。

(高木 正勝)

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