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 上海自由貿易試験区の金融分野改革について

2014年3月10日

中国人民銀行は2013 年 12 月 2 日、「中国(上海)自由貿易試験区の構築に関する金融 支持の意見」(以下「意見」)を公布しました。同意見は全三十条で主に以下の5つの内容が含まれています。①リスク管理に有利な口座体制の革新、②投融資送金・兌換の利便化模索、③人民元のクロスボーダー使用拡大、④金利市場化の着実な推進、⑤外貨管理改革の推進――です。(詳細内容はジェトロのホームページにて確認できます) 法令レベルで金融分野の開放・革新を推進する方向性が示されていましたが、内容は原則的なものが多く、具体的な解釈や実務については細則の発表が待たれていました。ここでは、クロスボーダー投融資アドバイザリー業務の視点からこの法案について解説します。

リスク管理に有利な口座制度の革新

制度規定により、自由貿易区内居住者・非居住者は人民元、外貨自由貿易口座を開設できます。開設した自由貿易口座と居住民自由貿易口座、中国外口座、中国国内自由貿易区外の非居住民口座、非居住民自由貿易口座及びその他の居住民自由貿易口座との間の資金の振替は自由に行うことができます。 新しい口座制度革新の一番のメリットは、開設した自由貿易口座について人民元又は外貨の制限がないことです。海外口座で調達した資金は中国国内口座へ振替できますので、金利差を勘案しつつ、多様な資金調達ができます。 ただし、居住民自由貿易口座と中国国内自由貿易区外の銀行決済口座との間で発生した資金流動はクロスボーダー業務管理と見なされ、引き続き制限されますので、今後の改革の動きに注目する必要があります。

投融資送金・兌換の利便化模索

新制度により、自由貿易区内中国企業からの海外への直接投資は、事前認可の手続きが必要なくなり、銀行でクロスボーダーの支払・受取・両替業務ができます。さらに上海地区の証券・先物取引所で投資・取引も可能になりました。また、条件を満たす中国個人投資家については対外投資も可能です。当然、海外個人投資家による中国の証券投資も可能です。 対外証券投資ではQDII(適格国内機関投資家)制度、対内証券投資はQFII(適格外国機関投資家)制度の制限が緩和されます。詳細な内容が公表されていないため、今後の動向に注目する必要があります。

人民元のクロスボーダー使用拡大

自由貿易区内の企業・個人は、人民元専用口座を開設することで自由貿易区内外関連企業と決済できます。決済時のエビデンス提出は不要とされています。また、クロスボーダー電子商取引(貨物貿易又はサービス貿易)における人民元決済サービスも提供できます。さらに、国際市場向けの人民元建て金融資産取引サービスも提供できます。人民元利用の自由度、利便性を引き上げ、国際的な決済紙幣とすることをねらった政策です。

金利市場化の着実な推進

これについては、「基礎的条件が熟する時」という文言が使用されています。つまり、今はまだ条件を熟していないという理解もできます。今すぐに金利市場に影響を及ぼすわけではなく、まず自由貿易内区内で大口譲渡可能性預金証書の発行を実施して、さらに時期を見て、区内から区外へ、大口預金証書から一般口座の小額外貨へ少しずつ開放するとみられます。

外貨管理改革の推進

一部の外貨登記及び変更登記等業務が銀行に委譲され、またリース会社などの国外債権業務の逐次審査許可が取り消され登録制になりました。この結果、貿易投資が更に便利になります。

以上の改革内容を見ると、中国の「走出去」戦略がさらに強化されています。中国投資家の対外投資、人民元の国際化について、資金移動の自由度・利便性が高まりました。一方、海外投資家から中国への投資、金利市場化は今後の改革努力を注視する必要があります。 クロスボーダーのM&Aの視点から見ると、日本企業は自由貿易区内の企業を買収する際、資金調達手法が多様化し、クロスボーダーの支払、受取、両替業務の利便化がはかられます。但し、自由貿易区外企業への買収は今まで通り制限されます。 中国人民銀行の上海責任者は記者会見(2013年12月3日)の中で、今後3ヵ月間で「意見」の内容を着実に実施し、半年後その経験を纏めた上で、一年後自由貿易区外地域でも実施できる管理モデルを作ると表明しました。 さらなる金融自由化を実現できれば、中国企業から海外への投融資は勿論のこと、海外企業から中国企業への投融資も自由度/利便度が高まっていくものと思われます。

(黄 海林)

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