【自動車】中国の次世代自動車戦略:EV優先で良いのか
2012年9月12日
1800万台を超えた中国の自動車生産、販売台数
中国の自動車市場は生産台数と販売台数が世界1位になり、2011年の生産台数は1,842万台で販売台数は1,850万台に達した。この内、乗用車はそれぞれ1,448万台と1,447万台、商用車は393万台と403万台である。自動車生産台数と販売台数の増加率は鈍化したものの、依然として1,800万台を超える驚異的な規模を維持している。また、自動車メーカーも100社を超え、これは日米殴韓では見られない異例の多さである。
「 湾道超車」戦略
自動車大国の目標を実現した中国は自動車強国という新たな目標に向け、政策調整を進めている。次世代自動車産業の育成と発展がその重要な部分である。
次世代自動車産業を育成しようという背景には、日々増加する石油輸入依存度の増加と深刻化する排気ガスによる大気汚染と温暖化問題がある。さらに次世代自動車を早期に産業化することで、次世代自動車では中国と同じスタートラインに立っている日欧米韓と肩を並べる自動車強国を目指すという「 湾道超車」戦略がある。
中国政府は「省エネ·新エネルギー自動車産業計画(2012-2020年)」を公表し、2015年までに電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド自動車(PHEV)の累計生産販売台数を50万台に、また2020年までに EVとPHEVの生産能力を200万台、累計生産販売台数を500万台以上にするとの目標を設定した。
これは、米国が公表した2015年までPHEVを100万台まで普及するという目標には及ばないものの、2020年までEVを100万台にするというドイツが掲げる目標と、同じく2020年まで200万台にするというフランスの目標を超えている。
EVとPHEV の性能を大きく左右する部品である二次電池については2015年までに動力電池のコストを2元/Wh以下にし、さらに充電回数を2,000回以上か寿命を10年以上にするとしたうえで、2020年までにはコストをさらに削減し1.5元/Wh以下にするという目標を設定した。1.5元/Wh以下のコストは新エネルギー・産業技術総合開発機(NEDO)が設定した日本の2020年目標と同レベルである。
HEVよりEV優先
中国政府はEV、PHEV、燃料電池自動車を新エネルギー自動車として定義し、HEVを省エネルギー自動車のカテゴリーに入れ、政策支援面では新エネルギー自動車、特にEVを発展戦略の重点と位置付けている。
しかし、EVの普及にあたっては多くの課題に直面している。その中でも重要なのが、EVのコスト、航続可能距離、充電インフラ、電池の寿命と充電時間、安全性などである。
まず、現在販売されているEVの価格はガソリン車の倍であり、中央政府と地方政府の補助金を計上してもガソリン車より遥かに高い販売価格になってしまう。次に、航続可能距離は150km前後と短く、数百km以上離れた中国の都市間移動に使うには充電インフラが万全ではない限り不安を残す。しかし、広大な国土を有する中国で充電インフラを充実にするには莫大な投資が必要となり、短期間で実現できる事業ではない。
さらに、現在EVに搭載されている二次電池は寿命が短く充放電サイクルが少なく、充電時間もかかる。急速充電も可能であるが、電池の劣化を加速することになる。そして、度々発生するEVの炎上・爆発事故も消費者の神経を尖らしている。様々な課題により年間1,800万台以上も販売されている中国市場で、EVの販売台数は僅か5,579台(2011年)に止まる。
一方、ハイブリッド自動車(HEV)はどうであろうか。HEVは中国では2,580台(2011年)しか販売されていないが、EVとは状況が異なる。HEVは航続可能距離や充電インフラ、充電時間の問題がない。EVより小型の二次電池を搭載するHEVは電池の寿命もさほど問題視されておらず、安全性も中国では注目されていない。
中国市場でHEVの販売台数が伸び悩んでいるのは、販売価格に問題がある。例えばプリウスの場合、中国での販売価格は22万9,800~26万9,800元(約284~333万円)になり、日本国内の販売価格より高く、また日本のような高額な補助金と免税対象にもなっていない。
短期的にはHEV、中長期的にはEV
しかし、中国でHEVの量産化が進み、HEVもEV同様に政策支援の対象になった場合は決して数千台規模の販売台数には止まらないであろう。
日本で年間25万台を販売するまで拡大してきたプリウスの実績は中国自動車メーカーの意欲を刺激している。第1汽車、上海汽車、長安汽車、北京汽車、奇瑞汽車、BYDなど多くのメーカーがHEVの研究開発と生産に乗り出し、HEV乗用車とHEVバス事業を積極的に進めている。今後、量産体制が確立すればコスト削減に繋がり、HEVの販売価格に反映することも期待できる。
HEVの生産に有力な中国メーカーが存在しない現状では、中国政府としてもHEVへの政策支援に消極的に成らざるを得ないが、今後多くの中国メーカーがHEVの生産台数を増やしてくれば政策の変更もありうるだろう。
そのため、HEVはEVの普及より課題が少なく、短期にはHEVを普及させ、中長期にはPHEVとEVの普及政策を進めるのが効果的である。自動車強国になることは「 湾道超車」戦略の重要な目的であるが、消費者が購入したくなるエコカーを普及させ、先進国以上の省エネと環境保護効果を追求することが一層高次元の「 湾道超車」であろう。
注: 中国語で「湾道」はカーブで、「超車」は追い越すという意味である。「湾道超車」戦略はガソリン車から次世代自動車への転換期というカーブを活用して日欧米韓諸国を追い越すという戦略である。
(金 永洙)