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 タイ:天然ガス依存からの脱却に向けた戦略とその背景
    ~長期電力開発計画(PDP2015)の概要~

2015年6月15日

自動車を中心とした産業の集積により、着実な成長を続けるタイでは、経済の発展に伴って増加する電力需要に対応するため、安定した電力供給源確保が重要な課題となっている。タイ政府が前回、2010年に策定した長期電力開発計画(PDP2010)から5年が経過し、現在、2015年から2036年までの20年間の電力開発計画を示した「PDP2015」の策定に向けたプロセスが進んでいる。

エネルギー省は4月28日にバンコク市内で公聴会を開き、PDP2015のドラフトの要旨 を発表した。以下、ドラフトから概要を紹介する。

「天然ガス依存からの脱却」が最大の目標

PDP2015の中でもっとも大きなポイントとされているのは、「発電用エネルギー割合の多様化(Fuel Diversification)」の実現である。計画では、現在約65%を占めている天然ガスの割合を2036年時点で30~40%まで減らし、その代替として、クリーンコール、再生エネルギー、他国からの輸入電力を増やすとしている。また原子力については、優先度は低いとしながらも、依然、計画の一部として位置づけている。下表は、現状およびPDP2015、PDP2010での目標値を比較したものだが、PDP2015では「天然ガス依存からの脱却」が方針としてより明確に打ち出されていることがわかる。

「安定供給」と「発電コスト」のバランス

今回、目標割合が変更された背景には、タイ政府の抱える2つの課題の存在がある。
PDP2015の中で「電力予備率15%以上」の確保が目標として示されていることからも、今後の経済発展に伴う伸び率を加味した将来の電力需要に対し、「エネルギーの安定的確保・供給」こそが、国家の安定を支えるエネルギー政策の最重要課題であることは異論のないところであろう。他方、これと並んで重要視されているもうひとつの課題が「いかに適切なコストでエネルギーを確保するか」である。

2007年、政府は代替エネルギーの積極的な開発を促進するため、電力買い取り価格上乗せ優遇制度(Adder制度)を導入したが、その買い取り価格の高さから太陽光発電事業などを中心に発電事業者の参入・申請が過熱した結果、想定を大幅に上回る数の案件が申請され、国および需要家の負担コスト増が懸念されるまでとなった。このため、2010年には太陽光発電事業に対するAdder価格の引き下げおよび新規案件の受理が停止されることになったという経緯がある。太陽光発電事業に対する補助制度としてはその後、2013年に、従前のAdder制度より助成額の低い固定価格買取制度(FIT制度)が導入されたが、高コストな代替エネルギーの開発への過度な後押しは、国家財政および需要家の負担コストの増加につながるため、エネルギー開発にあたってはコストの観点からの検討が重要であるということの重要性が認識されるきっかけとなった。

こうした背景から今回、PDP2015の中では、計画期間20年間の前期(2025年まで)については、新たな大規模独立発電事業者案件(IPP、設備容量90MW超)および小規模独立発電事業案件(SPP、設備容量10MW超90MW以下)を認可せず、IPP、SPPについては承認済み案件を執行するのみとする方針が示された。また、売電契約期間の満了するSPPについては、工業団地内で電気およびガスを供給する一部の案件を除き延長を認めないとしている。

なお、極小規模独立発電事業者(VSPP)に該当する設備容量10MW以下の代替エネルギー開発案件については、今後、今年7月を目処に新たなFIT制度が告知される予定になっており、併せて、その売買には価格競争入札を導入するとされている。これらの制度によって、代替エネルギーのコストを抑制しながら発電容量を増やしていく方針である。

省エネ計画「EEDP」と代替エネルギー開発計画「AEDP」

今回のエネルギー省による長期電力開発計画のもうひとつの特徴は、PDP2015と同じ期間(2015-2036年)で設定される代替エネルギー開発計画「AEDP; Alternative Energy Development Plan」と、省エネルギー計画「EEDP; Energy Efficiency Development Plan」との整合性をとり、省エネや再生可能エネルギー開発等を含めた、タイの社会全体におけるエネルギーの開発・利用計画を定めている点にある。

EEDPでは、対象セクターを住宅、工業、ビル、政府の4つに分け、それぞれの省エネ目標値を定め、それを達成するための施策として以下の6点を掲げている。
① 燃料補助金を撤廃/見直し、市場原理ベースでの取引とする
② 優遇税制および省エネ基金活用による省エネ設備導入の促進
③ 優遇金利制度の推進による高効率設備への更新促進
④ 商業ビルおよび工場に対する省エネ規則の制定
⑤ 国民の省エネ意識の醸成
⑥ 大規模発電・売電事業者による省エネ基準(EERS; Energy Efficiency Resources Standard)の顧客への適用

他方、AEDPにおいては、特に廃棄物およびバイオガスを最重要燃料資源と位置づけ、その他、バイオマスや太陽光、風力等を積極的に開発し、現在約7279MWの再生可能エネルギー発電能力を、2036年にはその2.7倍である19635MWにする計画となっている。エネルギー源ごとの内訳は下表のとおりである。

今後の見通し

PDP2015および一連の計画は、今後、政府による閣議承認を経て正式に策定される見通しであり、今後の動向が注目される。これに加え、発電に関与する事業者の関心は、7月を目処に発表される予定のVSPP向けの新たなFIT制度(前述)により多く集まるものと見られる。

(石毛 寛人)

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