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 岐路に立つ中国のエネルギー政策

2013年5月23日

中国のエネルギー政策
中国は世界最大のエネルギー消費国になった。一次エネルギー消費量は2009年に米国を抜き、2035年には米国の1.7倍に達すると予測されている(米国エネルギー情報局(EIA)、2011年9月)。また、一次エネルギー消費量のうち、石炭は72%、石油は20%、天然ガスは5%である。石炭の消費量が圧倒的に多く、石油、天然ガスを含めた化石燃料の割合は97%に達する。

このようなエネルギー状況を踏まえ、中国政府は『中国のエネルギー政策白書2012』で「節約優先、国内立脚、多元的な発展、環境保全、技術革新、改革深化、国際協力、民生改善」を中心とするエネルギー政策を公表した(『中国のエネルギー政策白書2012』国務院報道弁公室、2012年10月)。

拡大する化石燃料の海外依存度
国内の資源賦存が限定されているなかで、中国は急増するエネルギー消費を海外からの輸入に依存している。特に、石油の海外依存度が高く、石炭と天然ガスの依存度も上昇しつつある。

中国は石油の55%を海外から輸入しており、これからも増加傾向にある。石炭も2009年より純輸入国に転じ、中国政府は輸出関税を賦課することで石炭輸出を抑制している。また、中国は天然ガスの消費量を増やしており、今後東欧、中央アジアからの輸入が増加する見通しである。石油、石炭、天然ガスの海外依存度が急激に上昇しているなかで、長年に渡って掲げてきた「国内立脚」政策はますます困難に直面している。

存在感を示す再生可能・クリーンエネルギー
一方、再生可能・クリーンエネルギーの割合は拡大し続けている。水力発電は電源別発電量で2位を維持し、発電量全体の14%を占めている。原子力発電所は今後も建設を続け、運転中・建設中・計画中の原子力発電所を合計すると273基に達する(2012年10月末現在集計、テピア総合研究所『中国原子力ハンドブック2012』)。風力発電所は内モンゴル自治区、河北省、甘粛省、山東省、遼寧省、吉林省などで急速に新設を行っており、設備容量の累計ベース、新設ベースで世界1位を維持している。さらに、太陽光発電も近年倍増の勢いで急増して、一部では大型蓄電池を併設するモデル事業も展開している。中国政府は「水、核、風、光(水力発電、原子力発電、風力発電、太陽光発電)」を重要なエネルギー源として大きく活用する政策を策定し、今後再生可能・クリーンエネルギーはますます注目されることになる。

他方、再生可能・クリーンエネルギーは課題も残されている。まず、水力発電は水力資源の分布が一部地域に偏在し、発電量は天候の影響、特に上流の降水量、降雪量、蒸発量の影響が大きく、変動しやすい。次に、原子力発電は2015年まで新規建設を沿海部に限定し、内陸部の建設は事実上ストップ状態にある。また、安全性を最優先し、第3世代技術を推進する方針を決定しているが、建設中の多くは第2世代になっている。風力発電は設備容量が急増しているものの「棄風限電(発電できる風力資源があるものの風車の運転を停止することを指す)」状態が続いている。太陽光発電は巨額の政府補助金の支出に依存している。

有効な突破口
このような状況の中で、「節約優先」「多元的な発展」「環境保全」「技術革新」は一層重要であり、その実現には特に発電面では高効率・クリーン技術を大胆に導入し、消費面では工業を中心とした省エネ技術を強力に普及し、構造面では再生可能・クリーンエネルギーにおける新技術の研究開発と産業化促進が有効な突破口であろう。

中国では電力供給の82.5%以上を火力発電に依存しており、特に石炭火力発電への依存度が高いが、既存の石炭火力発電は発電効率が低く、また大気汚染物質、温室効果ガスの排出が多い。今後、中国政府の政策目標の達成には高効率・クリーン技術の導入が欠かせない。

消費面でエネルギー消費全体に占める工業部門の割合は常に70%程度を占めており、工業部門の省エネ推進が特に重要である。さらに、エネルギー構造面では再生可能・クリーンエネルギーの割合を向上するのが重要であり、ボトルネックになっているコストの削減、系統連系の安定化など課題解決に繋がる技術が必要になる。

(金 永洙)

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